2008年8月13日

夢幻語り:夢、異界、そして猫(08/15-16) 公演目前

出演者のおひとり,安田登さんの著書『日本語を生かすメリハリ読み!』附属のCDに,今回の顔ぶれにウードが加わった漱石『吾輩は猫である』の「餅の段」(「猫がお雑煮を食べて踊を踊っている」あれです)が収録されています.聴いてみたら立派な狂言でした(笑).動物が食べ物の誘惑と葛藤するのは『釣狐』という狂言を連想させるところもあり(『釣狐(つりぎつね)』にただよう悲愴感はまるでありませんが),猫が雑煮に食いついてからの笛は狂言のアシラヒ笛ですし.去る〔7月〕12日(土)島根県民会館の能楽基礎講座での槻宅さんのお話によると,その前日が東京で今回とほぼ同じ内容の公演だったとのことで,「餅の段」を上演したところ,舞台上の安田さんもお客さんと一緒になって笑い出してしまったそうです.

夢幻語り:夢、異界、そして猫(08/15-16)(タヌキにゅーす)......以下同じ

安田さんのブログにも,7月の公演の報告が出ていました.「一瞬中断というハプニング」だったとか.どの場面だったのでしょうね.

『日本語を生かすメリハリ読み!』は私も持っていまして,CDはiPodでよく聴くのですが,たかが餅を食べたいだけのことにもっともらしい理窟をこねる猫の姿を,安田さんの,ワキ方らしく決して狂言的ではない語りで描き出しているという,ハマってるんだかミスマッチなんだかわからない組み合わせが何ともおかしいですし,「猫がお雑煮を食べて踊を踊っている」猫を発見した子どもたちやおさんを受け持つ水野ゆふさんの声の変幻自在ぶりがたまらない.おさんの「あらま」は生でも聴いてみたいです.

2006年の「松江・能を知る集い」が,まさに今回の出演者勢ぞろいでの実演と体験の場であり,島根県内各地でのワークショップでも上演されてきましたから,半ばこの土地でも育ってきた演目であり,上演形態であると言えます.ワークショップから切り離して独立した公演としては,松江では初めての登場です.小泉八雲の作品は私もまだ聴いていませんので,どのように料理されて出てくるか楽しみにしています.

中でも,夏目漱石『夢十夜』の「第一夜」と,小泉八雲「破約」には共通点があります.いずれも,死の床についた妻が,夫に遺言をする場面から物語が始まるのです.しかし,約束を守れたかどうかが運命の分かれ道,「第一夜」の夫は約束を遂げて妻との「再会」を果たし,「破約」の夫には悲劇が忍び寄る.......一対の作品として見る楽しみがあるふたつの作品.しかも,ともに能に共通する物語の構造を持つ点が,とりわけ面白いと思います.

「百年、私の墓の傍(そば)に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」と言い遺して死んだ「第一夜」の妻.彼女の墓の上に百合の花が咲いたとき,男は妻が遺言通り,自分に逢いに来てくれたのだと悟るのです.それは複式夢幻能といって,生身の人間の姿を借りて登場した何者かが,正体をワキにほのめかして去り,やがて本来の姿で再び出現する形式に重ね合わせることができる物語の展開です.......これはほとんど,安田さん,槻宅さんのお話のウケウリですが(笑).

男の妻として人間の姿で現れていたあの人は,百合の精であったのか......? 「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」......だから「百」に「合」という名を持つ花が咲いたのか? そんなことを想像させる,不思議な物語です.

ちなみに『夢十夜』を書いたころ,漱石は能のワキの謡,安田さんと同じ下掛宝生流の謡を習い始めていたそうです.

一方,「破約」の夫は,いまわの際の妻に,再婚はしないと誓いながら,周囲の勧めを断りきれずに後妻を迎えてしまいます.すると,夫の知らないところで後妻は,先妻の亡霊に悩まされ,ついには凄惨な結末に至る.......

怖い話には違いないとは言え,先妻の亡霊は,夫に約束を破られたという悲しみを背負っています.亡霊の側にも,誰かに耳を傾けてもらいたい思いがあるのです.能で言えば,嫉妬に苦しむ「鉄輪(かなわ)」の妻や「葵上(あおいのうえ)」の六條御息所,あるいは一夜の宿を貸した客に約束を破られた「黒塚(安達原)(くろづか,あだちがはら)」の女......そういった人々に重ね合わせることができる存在.それが「破約」の先妻ではないかと,私は思っています.

奥の深い選曲がなされた「夢幻語り」です.特に15日(金)は夜の公演ですから,終演後は宍道湖北岸からの夜景がおみやげになるかも知れません.

日本語を生かすメリハリ読み!―漱石で学ぶ「和」の朗読法
安田 登
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2008年7月17日

夢幻語り:夢、異界、そして猫(08/15-16)

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これまたタヌキにゅーすではおなじみの槻宅聡さん(能楽森田流笛方)出演,能の技法を採り入れた,小泉八雲と夏目漱石のテクストによる朗読劇のチラシをデザインしました.御紹介しましょう.

出演者のおひとり,安田登さんの著書『日本語を生かすメリハリ読み!』附属のCDに,今回の顔ぶれにウードが加わった漱石『吾輩は猫である』の「餅の段」(「猫がお雑煮を食べて踊を踊っている」あれです)が収録されています.聴いてみたら立派な狂言でした(笑).動物が食べ物の誘惑と葛藤するのは『釣狐』という狂言を連想させるところもあり(『釣狐』にただよう悲愴感はまるでありませんが),猫が雑煮に食いついてからの笛は狂言のアシラヒ笛ですし.去る12日(土)島根県民会館の能楽基礎講座での槻宅さんのお話によると,その前日が東京で今回とほぼ同じ内容の公演だったとのことで,「餅の段」を上演したところ,舞台上の安田さんもお客さんと一緒になって笑い出してしまったそうです.

2006年の「松江・能を知る集い」が,まさに今回の出演者勢ぞろいでの実演と体験の場であり,島根県内各地でのワークショップでも上演されてきましたから,半ばこの土地でも育ってきた演目であり,上演形態であると言えます.ワークショップから切り離して独立した公演としては,松江では初めての登場です.小泉八雲の作品は私もまだ聴いていませんので,どのように料理されて出てくるか楽しみにしています.

チラシに登場する百合の花は,漱石『夢十夜』の「第一夜」にちなんで.

日時
2008(平成20)年08月15日(金)19:00
2008(平成20)年08月16日(土)15:00
会場
松江イングリッシュガーデン(島根県松江市西浜佐陀町330-1)
出演
安田登(ワキ方下掛宝生流)
水野ゆふ(舞台俳優)
槻宅聡(笛方森田流/島根県安来市出身)
演目
小泉八雲『日本の面影』より「盆踊り」
小泉八雲『影』より「死骸にまたがる男」
小泉八雲『日本雑録』より「破約」
夏目漱石『吾輩は猫である』より「餅の段」
夏目漱石『夢十夜』より「第一夜」
夏目漱石『夢十夜』より「第三夜」
定員
各回先着300名
料金(全席自由)
一般:2,000円
小中学生:1,000円
未就学児:無料
チケット購入方法
8月10日(日)までに電話で予約。予約番号に基づき、当日チケットを販売。
チケット予約申込先
松江イングリッシュガーデン(担当:原、小村)
電話:0852-36-3030
主催
松江イングリッシュガーデン
後援
八雲会
詳細情報
http://www.plusvalue.co.jp/mugenkatari/

2008年5月30日

この土日,松江にいろいろ出回ります

さーて,今度の土日は,タヌキぼーやがデザインさせてもろたモノが,松江市内あちこち出回るんで,まとめてごあんなーい.もーちょい早く載せぇよって話だけど(汗).

第102回パイプオルガン定期演奏会「コンドウ・レシピ、召し上がれ」

去年今年と,プラバホールのパイプオルガン演奏会の会場演出を,トコロドコロお手伝いしているのですが,今回カタチになってるトコでは,ホワイエの特設カフェ「Café de l'Orgue」のロゴなんぞを.

日時
2008年05月31日(土)15:00
場所
松江市総合文化センター プラバホール(松江市西津田6-5-44)
詳細情報
http://www.web-sanin.co.jp/matsue/plover/hall/e2008/0531.html

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2008年 能楽基礎講座:能楽の楽しみ方と学び方 第1回「楽しみ方:むずかしいと思わずにまずは観に行こう!」

チラシの画像

槻宅聡さん(能楽森田流笛方/安来市出身)による島根県民会館での講座が今年も開催.広告デザインも昨年に引き続き石川陽春が担当しています.

日時
2008年05月31日(土)15:00-17:00
会場
島根県民会館(島根県松江市殿町158)
詳細情報
http://www.civichall.pref.shimane.jp/hall/event/?20080531

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2008松江市健康福祉フェスティバル

イエローカード(表)の画像

石川陽春も会員として参加している「しまね子どもをたばこから守る会」も出展.5月に市販が始まったニコチンパッチの使い方や禁煙外来等を紹介する禁煙支援活動,専門医による喫煙に関する無料相談会,資料展示ほか.

会独自に製作したイエローカードも配布しますので,受動喫煙対策をしていない施設に対して,警告の意志をあらわすために御活用下さい.ここに挙げた画像はこれまでのカードですが,今回配布分からちょこっとマイナー・チェンジします.また,私が新たにデザインした入会案内も配布される予定です.

日時
2008年06月01日(日)10:00-16:00
場所
松江市保健福祉総合センター(松江市立病院となり/松江市乃白町32-2)
詳細情報
http://sayonaratabaco.org/info/20080524.html
http://genki365.net/gnkm01/pub/sheet.php?id=13981

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2008年5月 1日

2008年 能楽基礎講座:能楽の楽しみ方と学び方(5/31, 6/14, 7/12. 9/6)

オモテ面の画像

山陰の能・狂言を見に行く会のサイトでも紹介しましたように,島根県民会館の「能楽基礎講座」が昨年に引き続き開催されます.

昨年,すべての回を通して出席して興味深かったのが,まだ能を見たことがないという受講者が多かったこと.東京や関西のようにいつでもどこかで能が見られるわけではない土地柄にもよるのだと思いますが,能に対して何らかの興味・関心を持っている人は,決して少なくはないと実感しました.今回も,そうしたこれから能を初めて見る人たちに向けての話題の提供が,多くあろうかと思います.

また,謡曲を声に出して読む機会は,昨年も少しありましたが,今回はより拡充されています.謡曲は,必ずしも謡の技術を持たなければ楽しめないようなものではなく,素読や黙読するだけでも,あるいは耳で聴くだけでも味わいがありますから,個人的にはいずれ「能楽基礎講座」か「松江・能を知る集い」でやって欲しいと希望していたところです.こちらも楽しみにするとしましょう.

なお,広告デザインも昨年と同様,ワタクシ石川陽春が担当しました.どーぞよろしく(ナニを?).デザインワークスのサイトには,これから載せます(汗).ちょとお待ちを.

日時
2008(平成20)年05月31日(土),06月14日(土),07月12日(土),09月06日(土)15:00-17:00(全4回)
会場
島根県民会館(島根県松江市殿町158)
講師
槻宅聡(笛方森田流/島根県安来市出身)
安田登(ワキ方下掛宝生流) ※第4回のみ
内容
第1回:05月31日(土)
楽しみ方:むずかしいと思わずにまずは観に行こう!
第2回:06月14日(土)
学び方(1)実技編:楽しいと思ったらやってみよう!
第3回:07月12日(土)
学び方(2)文献編:台本(謡本・狂言台本)を読んでみよう!
第4回:09月06日(土)
学び方(3)体験編:ことばと声=謡曲のたのしさ
参加料
一般:全4回通し3,500円,第4回のみ1,000円
学生:全4回通し2,000円,第4回のみ600円
※全4回通し受講者には07月18日(金)「野村万作・萬斎 狂言公演」の入場券割引特典あり。
参加申込先
島根県民会館 能楽基礎講座係
電話:0852-22-5502
ファックス:0852-24-0109
電子メール:info@cul-shimane.jp
※氏名,年齢,電話番号,住所を明記すること.
詳細情報
http://www.civichall.pref.shimane.jp/hall/event/?20080531
http://sanin-noh-kyogen.info/schedule/20080531.html

2008年2月19日

2008年 松江・能を知る集い:能楽囃子の楽しみ 笛と小鼓(03/02)

チラシの画像

タヌキにゅーすでのお知らせが遅くなりましたが,今年も「松江・能を知る集い」のチラシのデザインを担当しました.イラストレイションは,前回に引き続き小西優子さんにお願いしました.

体を動かすことで能の魅力を味わう「松江・能を知る集い」は今年で5年目.今回は,笛と小鼓を通して、能の囃子をじっくり掘り下げる1日です.聴いているだけでは気づかないこと,笛や小鼓の稽古を体験したり実際に道具(楽器)に触れたりして初めて発見できること,きっとあると思います.講師は毎年おなじみの槻宅聡さん(笛方)と,「松江・能を知る集い」初登場の鳥山直也さん(小鼓).

参加応募期限が迫っていますが,まだ定員に余裕があるようですから,今からでも3月最初の日曜日の予定に御検討下さい.ちなみにワタクシ,実行委員のハシクレでございます,ハイ.

日時
2008(平成20)年03月02日(日)10:30-15:30(10:00受付開始)
会場
松江市総合文化センター 小ホール(島根県松江市西津田6丁目5-44)
講師
鳥山直也(能楽観世流小鼓方/島根大学卒業)
槻宅聡(能楽森田流笛方/しまねアーティストバンク登録講師/島根県安来市出身)
定員
60名
参加料
一般:2,000円
高校生以下:800円
参加申込期限
2008(平成20)年02月22日(金)
参加申込・問い合わせ先
「松江・能を知る集い」実行委員会
電話:090-7122-2940(生和)
詳細情報
http://sanin-noh-kyogen.info/tsudoi/

2008年2月 3日

見々久神楽の「節分詣り」

見々久(みみく)の長者「今日は節分さんだけん,杵築(きづき)の大社さんへ節分詣りをさんといけん……なんだいかんだい面倒くさいかもしぇんが,支度してごせぇや.

(今日は節分だから,出雲大社へ節分のお詣りをしなければいけない……なんだかんだと面倒くさいかも知れないが,支度をしておくれ)

島根県立古代出雲歴史博物館のサイトにある「動画の泉」で公開されている,「見々久神楽」(出雲市見々久町)の映像から,「節分詣り」という狂言風の演目の冒頭です.

見々久の長者に呼び出されたサンペイという名の従者が「はてさてお呼びでございますやら.いかなる御用にて御座候」と畏まった言葉で用件を訊ねると,長者は「ずーずー弁でいいけん」と,以下出雲弁でのやりとり.出雲大社へ節分のお詣りに行くから供をせよと言いつけて,主従そろって出かけています.大社に到着して,「鬼は外,福は内」と豆をまく長者.サンペイも長者にならって豆をまきますが,言葉を取り違えて「鬼は内,福は外」と言ってしまったもんですから,さあ大変.

能楽の狂言の影響が随所に見てとれる,「出雲弁狂言」と呼んでよさそうな演目です.

出雲地方で勢力を誇った神社のひとつである佐太(さだ)神社(松江市鹿島町)に伝わる「佐陀神能」という神楽が,能楽の様式を採り入れて現在の姿を整えたとされ,出雲地方の各地に佐陀神能の流れを汲むと思われる神楽が伝わっています.この見々久神楽の映像でも,今日の能楽で「翁(おきな)」と呼ばれる,千歳(せんざい),翁,三番叟(さんばそう)による神聖な舞の様子が紹介されていますが,「節分詣り」のような狂言風の演目があるのもまた,能楽の影響によるものかも知れません.

ちなみに,節分に出雲大社へ参詣に行くという筋立ての演目は,能楽の狂言にもあります.「福の神」では,節分と称して出雲大社に年籠もりに行った参詣人一行が,豆をまきつつ祈りを捧げているところに福の神が出現します.あるいはその名もズバリ「節分」という演目では,夫が出雲大社への年籠もりに出かけた留守番の妻の前に,鬼が現れて言い寄ってきます.これらと比較して見々久神楽の「節分詣り」を見るのも面白いかも知れませんが,出雲の住人として何より興味深いことは,節分に出雲大社で豆をまいている点ですね.今の出雲大社で,そんなことやってましたっけ?

2種類ある動画のうち,短編と公開編それぞれにこの演目が収録されていますが,公開編では16分02秒ごろから「節分詣り」が始まります.おうちでの豆まきのあとのお楽しみにどーぞ.

2008年1月18日

速報:「2008年 松江・能を知る集い」は3月2日開催

詳しくは,公式サイトを御覧下さい.

松江・能を知る集い

http://sanin-noh-kyogen.info/tsudoi/

2007年12月30日

正月三が日はNHKで能・狂言

昨日の忘年会で,「このへんで今度狂言が見られるのはいつか?」と訊かれたのですが,今のところ私は確たる情報を得ていませんので,替わりに正月三が日にNHKの教育TVとFMで放送される番組を紹介しておきました.

「山陰の能・狂言を見に行く会」のサイトにも,少し書いておきました.

なにぶん山陰地方は,東京や関西などに比べれば,能・狂言の公演数がずいぶんと限られていますから,TVやラジオが能・狂言との出会いに果たす役割は,決して小さくはないと思います.私も実際,高校時代まではTVと本で能・狂言に親しんできたものですから.「能・狂言は見たことがないけど,タヌキぼーやがわーわー言うモンだから,少しは気になってる」という人(誰?)は,こういう機会をチェックしてみて下さい.

ちなみに,正月三が日のこれらの番組,基本的には放送のために演じて収録したものですから,観客は普通いません.客席に人っ子ひとり見えなかったり,狂言で客席から笑い声がまるで聞こえなかったりしますが,「能ってゼンゼン見る人いなんじゃない?」「狂言って笑っちゃいけないの?」なんて思わなくて結構ですから,御安心あれ.……と言っても,お客のいないスタジオで録音した落語並みに違和感はあるかも知れませんが(笑).

2007年12月13日

十二世野村又三郎さん死去

86歳.たぶん和泉流では最年長の狂言方だったのではないかと思います.シベリアで抑留生活を送り,帰国したら先代である父親が亡くなっていて,苦労して又三郎家を牽引してきたとか.

実際の舞台に接したのは,2004年10月5日,出雲市民会館「ザ・ベスト・オブ能・狂言2004」での,上品でやわらかな「附子(ぶす)」.先年TVで見た「金岡(かなおか)」では,大曲でありながらも重々しくならず,あっさりとした味わいに仕上げていたのに好感を持ちました.

6月の観世榮夫さんに続いて,思い出深い舞台を見せてくれた人が,またひとり.

2007年11月11日

創作能「石見銀山」帰り



大田市民会館。18時30分から3時間近い催し。鼎談50分、休憩10分、狂言「寝音曲」20分、再び休憩10分、能「石見銀山」1時間20分。催し全体の間延びした感は否めないが、能の後場に、昨年の初演時から変更点あり、これは効を奏する。詳しくは後日、能・狂言を見に行く会のサイトで。

2007年10月18日

現代狂言II帰り

島根県民会館。出演は南原清隆、野村万蔵、島崎俊郎ほか。「狂言とコントが結婚したら」と銘打った試み。最後の演目「TANE〜種〜」後半の盛り上がること。CM撮影現場で収録映像の巻き戻しだのスロー再生だの「実演」させられるものだから、そりゃあーた。台本通りだかアドリブだかだんだん見分けがつかなくなっちゃって。その勢いのままカーテンコール、だけでは収まらず、通常はないというナンチャンと万蔵さんの挨拶まで。それにしても万蔵さんのCMディレクターの軽妙さはタダゴトじゃなかった。長年コントやってきたかのような溶け込みぶり。

2007年9月30日

大社・能を知る集い帰り



もと造り酒屋の手錢記念館の座敷で開催。毎年恒例の松江に比べて、町内の寄合のような雰囲気のワークショップだったのは、会場によるのか、客層によるのか。

2007年9月18日

2007年 大社・能を知る集い:語り・舞・囃子を楽しもう(09/30)

これまでにも御紹介してきましたように,私は「松江・能を知る集い」の広告デザインを毎年担当していますが,その「松江・能を知る集い」の講師陣によるワークショップが,大社にやって来ます.

日時
2007(平成19)年09月30日(日)13:00-17:00
会場
手錢記念館(島根県出雲市大社町杵築西2450-1)
講師
安田登(ワキ方下掛宝生流)
槻宅聡(笛方森田流/島根県安来市出身)
定員
30名
参加料
1,000円(入館料を含む.申込が必要)
問い合わせ先
手錢記念館
電話:0853-53-2000

「松江・能を知る集い」の経験から言いますと,能楽方面の体験型の催しでよくあるような,面装束の着付け体験や,囃子の楽器を参加者が順番に触るといった内容は,まずほとんど出てきません.能楽師が身につけている呼吸法や筋肉の動き,発声法,リズムの取り方などを通じて,能楽師の身体感覚を体験するという,この講師陣ならではのワークショップになることでしょう.

また,安田さん,槻宅さんに現代演劇の俳優を加えた3人による,能の技法を取り入れた朗読の催しが,東京の能楽堂で上演されたり,「松江・能を知る集い」などのワークショップで披露されたりしています.その成果もきっと反映されたものになると思います.

能に限らず演劇,音楽,ダンスが好きな地元の方にも,きっとお楽しみいただけるはずです.


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2007年9月17日

連休の巡回

3連休も今日で終わりだニャって思ったら,今度の土日月も3連休なのね.今ごろ気づいたノダ.

タヌぼー,今日は1日ウチにいたノダけど,土日の午後は巡回してきたノダ.

09月15日(土)
世界遺産登録記念 輝きふたたび 石見銀山展(島根県立古代出雲歴史博物館)
万作・狂言十八選 第三回:出雲狂言会(出雲大社)
09月16日(日)
大正ロマンの美人画家 竹久夢二展:夢二郷土美術館コレクションより(島根県立美術館
ギョーザ食べながら異文化交流(笑)(島根県内のどっか)

展覧会2本はやっっっっっと行けたノダ.石見銀山展は,石見銀山資料館でもやってるんで,会期末まであと1週間のうちに出かけてみたいニャ.

狂言の報告は,近いうちに「山陰の能・狂言を見に行く会」に書くノダ.スタッフに客席に,門前町住人さんとか,ねむりねこにゃんとか,こすもすライフのおねーさんとか(誰が誰だか?),おなじみの顔がいくつもあったぞよ.能楽基礎講座でお目にかかった「亀井広忠さん呼んで下さ〜い」の人(これまた誰?)は見つけられんかったけど,どのへんの席だったのかニャ?

2007年9月11日

山陰・秋の演能情報

島根県民会館で3回にわたって開かれました,槻宅聡さんの「2007年 能楽基礎講座」は,先日8日で最終回を迎えました.長年にわたって謡や仕舞を習っている人から,まだ実際の能を見たことがない人まで,実に幅広い層の人たちと能のお話ができるという,ユニークな場になりました.「来年もやって欲しい」という参加者の声が多数,県民会館に寄せられているとか.

さて,私が管理しているサイト「宍道湖・中海圏の能・狂言を見に行く会」改め「山陰の能・狂言を見に行く会」では,山陰地方の演能情報を順次掲載しています.講座を通じて能・狂言への関心を深めた方も,講座には参加しなかったけれども能・狂言が何となく気になるという方も,どうかお役立てのほどを.

現在,同サイトで紹介している主な催し物は,以下の通りです.

2007/09/15 出雲大社(出雲市大社町)
万作・狂言十八選 第三回:出雲狂言会(チケットは完売)
2007/09/30 手錢記念館(出雲市大社町)
2007年 大社・能を知る集い:語り・舞・囃子を楽しもう
2007/10/01 鳥取県民文化会館(鳥取市)
狂言を楽しむ:茂山一門の世界(2007年度)
2007/10/18 島根県民会館(松江市)
現代狂言II:狂言とコントが結婚したら
2007/11/11 大田市民会館(大田市)
創作能「石見銀山」(石見銀山遺跡世界遺産登録記念)

2007年9月10日

老女物の能を1日で2番

昨日のことなんですが,NHKで老女物と言われる能を2番,相次いで放送してましたね.いずれも録音・録画したきりで,まだちゃんとチェックしていませんけれども.

NHK-FM『能楽鑑賞』では今井泰男「関寺小町(せきでらこまち)」(宝生流)を独吟で.約45分たっぷり,ひとりで謡うという(汗).

NHK教育では,横浜能楽堂公演の録画で,友枝昭世「伯母捨(おばすて)」(喜多流)

『能・狂言事典』(平凡社)によると,老女がシテ(主役)の老女物の能は,

能の美意識上,女を描くことと老いを表現することは重視される傾向があり,その両面を兼ねるところから高度な技量と芸位,深い精神性を要し,相応の年齢に達しないと演じられないとされる.

といった具合に重い扱いをされるものですから,そう頻繁には上演されないのですが,よりによって,老女物の中でも「三老女」と呼ばれる「関寺小町」「桧垣(ひがき)」「姨捨(伯母捨)」のうち2番が,1日のうちに電波にのってしまうとは.放送局の編成上の都合にしても,こういう日は今後なかなか訪れないことでしょう.

2007年9月 8日

松江巡回

今度の土日は松江へ行こう」で取り上げたところを巡回してきたノダ.

STORE ROOM店内の写真

出雲ビルに開店したSTORE ROOM.いしこちゃん,おめとっさんナノダ.シンプルな空間に色とりどりの手芸素材や,石原まゆみオリジナルのバッグやエプロン.上の階の「おいしいで祝う、9月」ともどもにぎやかなことになってたノダ.お菓子ウマかったっす,Mme Lume(誰?).

開場前のシンポジウム会場の写真

そのご近所,STICビルの「ジャパン―アイルランド フレンドシップ in 松江」で,キャベツとベーコンの煮込みでおひるごはん.各種ワークショップはなかなかの盛況.そのあと開場前のシンポジウム会場を見せてもろたノダ.看板もいちおー,デザインしやした.明日は午前中の講演会に行きやすノダ.

んでもって,最後は島根県民会館で能楽基礎講座.大ホールでミュージカル「あいと地球と競売人」,中ホールの名画劇場で「不都合な真実」やってて館内フル回転.それでも40人近く来てたかニャ.ワタクシ,ガラにもなく全3回,受付やっとりました(笑).「来年もやってね」って声がいっぱい寄せられてるとか.詳しい報告は「山陰の能・狂言を見に行く会」で改めて.

2007年9月 7日

「宍道湖・中海圏の……」改め「山陰の能・狂言を見に行く会」

2007年09月07日夜より,私が管理するサイト「宍道湖・中海圏の能・狂言を見に行く会」を「山陰の能・狂言を見に行く会」に改称しました.

サイトのスクリーン・ショット

あわせて,独自ドメイン「sanin-noh-kyogen.info」を取得し,

でサイトを御覧いただけるようになりました.

今後とも当面は,島根半島から米子市・境港市にかけての,宍道湖・中海圏を主な対象として,能・狂言の情報をお届けする見通しですが,ゆくゆくは東西に長い山陰両県(島根・鳥取)全域をしっかりカヴァーするつもりで,「山陰の能・狂言を見に行く会」を続けていきます.よろしくお願いします.

2007年9月 5日

今度の土日は松江へ行こう

さーて,今度の土日,8日と9日は,タヌキぼーやとゆかりある人たちが,松江市内でいろーんな催しやるノダ.ここでひとまとめにして,ごあんなーいでござい.

ジャパン―アイルランド フレンドシップ in 松江:友好団体シンポジウム+ワークショップ

チラシの画像

日本各地で活動するアイルランド友好団体が一堂に会するシンポジウムと,同時開催のアイルランド文化を知るためのワークショップ.広告デザインは石川陽春.

開催日
2007年9月8日(土)―9日(日)
場所
松江市市民活動センター(STICビル/島根県松江市白潟本町43)
詳細情報
http://www.sanin-japan-ireland.org/event/20070908.html
http://www.sanin-japan-ireland.org/event/20070908.html

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おいしいで祝う、9月

STORE ROOMのサイトのスクリーンショット

「ジャパン―アイルランド フレンドシップ in 松江」会場と目と鼻の先にある出雲ビルで,4階のギャラリー「SOUKA - 草花」の1周年と,3階の「STORE ROOM」開店を記念して,おいしいもの大集合とか.SOUKAのメカちゃんも,STORE ROOMのいしこちゃんもおともだち.

開催日
2007年9月8日(土)―9日(日)12:30-17:30
場所
SOUKA - 草花(出雲ビル4階/島根県松江市白潟本町33)
詳細情報
http://www.store-room.net/news/eid66.html

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2007年 能楽基礎講座:鑑賞のヒント 第3回「能の器楽:囃子の魅力」

チラシの画像

「松江・能を知る集い」の槻宅聡さん(能楽森田流笛方/安来市出身)による新シリーズの講座も,いよいよ最終回.広告デザインは石川陽春.

日時
2007年09月8日(土)14:30-17:30
会場
島根県民会館 第1多目的ホール(島根県松江市殿町158)
詳細情報
http://hw001.gate01.com/tktk/basic2007/
http://www.civichall.pref.shimane.jp/hall/event/?20070707

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映画上映会「夢二映画特集」

表紙の画像

島根県立美術館で開催中の「大正ロマンの美人画家 竹久夢二展:夢二郷土美術館コレクションより」(09月23日まで)の関聯イベントひとつ.夢二を主人公とする映画2作品を上映.「竹久夢二展 イベントスケジュール」の広告デザインは石川陽春.

日時
2007年09月9日(日)
会場
島根県立美術館 ホール(島根県松江市袖師町1-5)
詳細情報
http://www1.pref.shimane.lg.jp/contents/sam/

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2007年9月 2日

黒くどんみりとして甘い物

なんかナゾナゾみたいなこと言うとるノダけど,常温で保管してた固形の黒砂糖が,この夏の暑さで,ちょいと溶けて湿り気を含んできましてニャ.

黒砂糖の写真

この写真だと,ボケててわかりにくいかニャ?

狂言「附子(ぶす)」で,黒砂糖を「黒くどんみりとして甘い物ぢや」って言うのは,ねっとりとした水飴に近い質感だと思うノダけど,そんな「どんみり」状態にちょこっと近づいたよーな気がしちゃったのは,「宍道湖・中海圏の能・狂言を見に行く会」のタヌキぼーやらしいっちゃらしいですわニャ.えー,時々更新中ナノダ(宣伝かっ)

宍道湖・中海圏の能・狂言を見に行く会

2007年8月16日

「のぞいてみよう!世界遺産 能楽空間」鑑賞記を掲載

こちらでのお知らせを忘れていましたが(ヲイ),「寺の夜能」のエントリーで先日予告しました通り,「のぞいてみよう!世界遺産 能楽空間」(8月5日,松源寺[島根県安来市])を見に行った感想を,「宍道湖・中海圏の能・狂言を見に行く会」のサイトに載せました.

住民が主体となって,このような催しが盛んに行われるようになればと思い,紹介するものです.

2007年8月 6日

寺の夜能

昨日の安来駅まっぷたつ(笑)を目撃したあと,夕方になって向かった先は,古い市街地に隣り合う山の麓の松源寺という禅寺.「のぞいてみよう!世界遺産 能楽空間」を見に行きました.前半は能の囃子の実演と解説,後半は半能「清経」でした.

このあたりでは(たぶん)珍しい,公共施設以外での能の催し.寺のお堂で見るというのは私も初めてでした.夕方とはいえこの夏の暑い時期に,お堂にギッシリ250人は集まっていたと思いますが,夕立のあとの涼しい風が,開け放った戸から入って心地よい.

公共ホールの舞台に仮設の能舞台を組むと,脇正面にムダな空間ができてしまって,客席と舞台との間に隔たりが出てしまうのに対して,今回は本尊の前に人と仏さんが四方を取り囲む舞台.これほど舞台と客席が近い能の催しは,この地域では貴重かも知れません.蝋燭と間接照明によるあかりの加減もよかったです.

詳しいリポートは,「宍道湖・中海圏の能・狂言を見に行く会」サイトに書くつもりです.

2007年5月11日

「宍道湖・中海圏の能・狂言を見に行く会」サイト開設

webのスクリーン・ショット

石川陽春が運営する能・狂言のサイトが開設しました……10日前に(爆).

宍道湖・中海圏域を中心に,島根・鳥取両県で開催される能・狂言の公演,講座,ワークショップ等をご紹介します.

これまで槻宅さんとの御縁で,能関係の仕事をいくつかしてきましたが,そもそも能は小学生のころから好きで,今の仕事をしているのも,実は能と無関係ではないのです.そんなお話も含めて,今後,能・狂言関係の話題は,主に新しいサイトで提供していきます.

宍道湖・中海圏の能・狂言を見に行く会

http://ishikawakiyoharu.info/nohgaku/

2006年12月26日

2007年松江・能を知る集い:異界と出会う

チラシの画像

私が広告デザインを担当している,毎年恒例の「松江・能を知る集い」.来年は1月7日の開催です.

今回のテーマは「異界と出会う」.能には神さまや鬼,幽霊,さらには植物の精といった,この世の生身の人間ではないものが,数多く登場します.そうした「異界の者」たちと,私たち生身の人間との出会いを引き出す装置としての能に迫る.そんな内容になるのではないでしょうか.

講師のおひとりである安田登さんの近著『ワキから見る能世界』(NHK出版)が,なぜワキは「異界の者」と出会うことができるのかという,謡曲の詞章から直接にはうかがい知れない疑問を掘り下げながら,まさにこのテーマを扱っています.あわせてお読みになるのも面白いかと.

日時
2007年1月7日(日)入門編 10:00-12:00/初級編13:30-15:30
場所
松江市総合文化センター 2階大会議室(松江市西津田6丁目5-44)
講師
安田登(能楽下掛宝生流ワキ方)
槻宅聡(能楽森田流笛方/安来市出身)
主催・お問い合わせ
財団法人松江市教育文化振興事業団(プラバホール)
phone 0852-27-6000
詳細情報
http://hw001.gate01.com/tktk/tsudoi/(槻宅さんのサイト)
デザイン
石川陽春
イラストレイション
小西優子
ワキから見る能世界
ワキから見る能世界
posted with amazlet on 06.12.26
安田 登
日本放送出版協会
売り上げランキング: 110890

2006年12月 9日

松江松聲会の能楽入門講座「能楽十人十色」(12/10)

翌日の催し物の話題で恐縮ですが,今年も松江松聲会(しょうせいかい)から,能楽入門講座の案内が届いていますので,簡単に御紹介します.

日時
2006年12月10日[日]14:30-
会場
松江テルサ
主催
松江松聲会
講師
井上裕久(観世流シテ方)

毎年恒例になりました松江松聲会の謡曲・仕舞発表会(同日同会場 10:00-)にあわせて催される能楽入門講座.お話は,松聲会を指導する京都の観世流シテ方・井上裕久さん.代々のシテ方の家らしく井上家所蔵の面や装束を用いつつ,今年は能の登場人物の役柄についてのお話とのことです.

そのほかチラシには,「体験入門として出雲国ゆかりの能『大社(おおやしろ)』の一節を皆様に謡っていただきます」とあります.「大社」は,神在月の出雲大社を舞台に,大社のいわれと神々の舞を主題とする曲です.上演頻度が高くない曲ですから,その謡の一節に触れるというのは,御当地ならではのことではないかと思います.

2006年7月 2日

『観世』6,7月号に,松江におけるワキ方進藤流の記事

能楽の月刊誌『観世』6月号と7月号に,「松江・能を知る集い」でおなじみ,森田流笛方・槻宅聡さんによる「松江の進藤流について」と題する報告が掲載されています.

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2006年4月26日

槻宅聡さんの「能楽森田流笛 入門体験教室」(松江市)

松江・能を知る集い」でおなじみの槻宅聡さんの能管教室が,5月から松江で 始まります.「転送歓迎」とのことでしたから,案内を以下に転載します.

能楽森田流笛 入門体験教室


日時:
2006年5月14日(日)午後2時~5時
会場:
天神町会館二階 (松江市天神町58-11 白潟天満宮境内)
会費:
2000円
楽器はお貸しいたします。 (樹脂製・購入も可=12000円)。

  1. 能の笛、囃子について解説します。
  2. 唱歌(しょうが)を全員で歌います。
  3. 楽器を持って音を出してみます。

今回以後、年間5回の稽古を予定しています(8月、11月、 1月、2月、3月)。 今回はグループレッスンですのでお気軽にご参加ください。

今回のお稽古の後で、入門希望の方はあらためてお申し込みください。 一回だけちょっとかじってみたいという方でも歓迎します。

正式入門の場合、5回分の謝金(二万円、学生一万八千円) を一括前納でお願いします。なお、入門料(入会金)はいただ きません。

楽器の用意と会場の都合がありますので、ご参加ご希望の 方はできるだけ事前にご連絡をお願いします。会場は畳敷き で30人くらいは入れるようです。なお専用の駐車場はない ようですのでお車でいらっしゃる方はご自身で確保願います。

お申し込み、お問合せは槻宅(つきたく)までお願いいたします。

私の経歴などは↓こちらでご覧ください。 http://hw001.gate01.com/tktk/

2006年2月22日

「2006年 松江・能を知る集い」のデザイン[1]

松江・能を知る集い」は,全国さらには海外の各地で頻繁に催されているであろう能のワークショップの中でも,異色の存在なのかも知れません.

まず,面や装束をつけてみようだとか,囃子方の楽器に触ってみようだとかいった話が出たことはありません.また,謡の一節を取り出してお稽古の体験,みたいなこともありません.

過去2回の「能を知る集い」では,「能の身体感覚」がテーマになりました.例えば,分業制をとっている能楽師たちが一堂に会するとき,どのように呼吸を合わせてひとつの舞台を作っているのか,という視点から,鼓を打つ際の掛け声を出しました.床を区切っただけの能舞台に,参加者を地謡,囃子方,後見,ワキ方,観客として配置し,その中をシテ方の役をする参加者が歩き,四方を多くの人に囲まれる能の舞台空間を体験したこともあります.そのほか「ノイズを含む声」「歩行と呼吸の関係」……など,まさに「体で感じる能の世界」(当時のチラシのコピーより).槻宅聡さんと安田登さんの紋付姿を除くと,誰の目にも明らかに能のワークショップ,あるいは“日本の伝統ナントカ”と見える要素は,ほとんど登場しません.

それだけに,「能を知る集い」のイメイジを広告として視覚化する作業は,他の能関係の催しの広告をデザインするほど容易なものではありません.能面や演能の写真をポンと配置して,「幽玄の世界」云々と陳腐な常套句を毛筆系の書体で組むといった“ごまかし”が利かないのです.ありきたりな方法で“日本の伝統ナントカ”を強調しようとしても,「体で感じる能の世界」は,時代を超えて現代に生きる藝術,すなわち本来の意味における“古典”としての能を映し出しているのですから.

「能を知る集い」の広告では一貫して,

  • 使い古された言葉としての“日本の伝統ナントカ”を離れること
  • 私たち現代人が参加して大きな喜びを得られること

をデザインの主題に据えてきました.そのことが,石原まゆみさんのイラストレイションの使用と,現代的な表情を持つ明朝体とゴシック体を中心とするタイポグラフィへとつながっているわけです.

2006年2月20日

2006年 松江・能を知る集い

チラシの画像

私が広告デザインを担当している「松江・能を知る集い」は3年目を迎えました.

今回は,1曲の能がどのようにできているかを,「かたり・せりふ」と「はやし」,あるいは「ことば」と「音」を通じて体験するという内容です.

江戸時代以降の能は,決まった曲目が繰り返し上演されるのが常になりましたが,観阿弥や世阿弥が活躍した室町時代には,観客の求めや時代の要請に応じて,新作の能が次々と生み出されました.そうした時代の能楽師の営みの一端を追体験できるのが,今年の「能を知る集い」ではないかと思います.

今年も講師として槻宅さんや安田登さんがいらっしゃいますが,この顔ぶれ抜きにしては考えられないような企画でしょう.

デザインの話は,日を改めて.

日時
3月5日(日)10:00-17:00
会場
松江市総合文化センター(松江市)
講師
水野ゆふ(舞台俳優)
安田登(下掛宝生流ワキ方)
槻宅聡(森田流笛方/安来市出身)
内容
1. 「かたりとせりふ」ワークショップ
2. 「はやし」ワークショップ
3. 全体パフォーマンス(全員参加)
入場料
無料
定員
70名
主催
松江市
申し込み・問い合わせ先
松江市観光振興部観光文化振興課
電話:0852-55-5293
応募締切
2月28日(火)必着

2006年1月23日

ござる・DE・探偵事務所

1月19日-20日の鳥取,米子に続いて,来月は松江でも,茂山千五郎家の狂言の公演があるそうです.今度はNPO法人おやこ劇場松江センターの例会(会員制)で,主に小学生高学年を対象とした会とのこと.

NPO法人おやこ劇場松江センター第34回高学年例会
笑いの座:ござる・DE・探偵事務所

日時
2月9日(木)19:00-(開場:18:30)
会場
島根県民会館中ホール(松江市)
内容
[第1部]古典はおいしい(古典狂言)
[第2部]ござる・DE・探偵事務所:初めての大事件(新作狂言)
問い合わせ先
NPO法人おやこ劇場松江センター
電話:0852-22-4937
詳細
http://oyakomatsue.web.infoseek.co.jp/reikaiosirase.htm

2006年1月 4日

金春流「翁」の「十二月往来」をTVで観て

3が日はTVとラジオで能・狂言を楽しみましたが,中でも面白かったのは,1日のETVで見た金春流の能「翁(おきな)」(翁/父尉:金春安明)でした.年末のにゅーすで紹介した通り,「十二月往来(じゅうにつきおうらい)」「父尉・延命冠者(ちちのじょう・えんめいかじゃ)」の小書(特殊演出)がついたものです.

「十二月往来」では,「かかるめでたきみぎんには 十二月の往来こそめでとう候え」ということで,シテの翁が月々の風物を挙げ,ツレの翁2人がその心を謡い応答していました.

シテ「正月の松の風」
ツレ「君のことを調べたり」
シテ「二月の燕」
ツレ「よわいよわいをはやめたり」
シテ「三月の霞」
ツレ「四方の山にたなびく」
(仮名遣いはTVのテロップに準拠)

この調子で12月まで続きました.私には大意がつかめない点がいくつかあるものの,日本の四季折々の美しさがコンパクトに織り込まれた,おもむきのある詞章のように感じられました.

そして,これが金春流で謡われたというのが,またよかったです.私はシテ方五流の謡い方を聞き分けられるほどの耳は持ち合わせていませんが,金春流だけは他の四流との区別がつけられるようになってきました.私は金春流の謡を生で聴いたことがありませんから,TVとラジオを通じての印象を書きますと,朗々と響き渡るような力強さや華やかさは,他の流儀ほどには感じられない.代わりに,地の底に沈潜していたものがジワリと湧き上がるような,閑かなうちにも何ものかがうごめいているような気配をおぼえます.そのためにかえって,「十二月往来」のような牧歌的な詞章がしっくりと来るように思えるのです.

金春流の謡に対するそうした印象は,今回のシテの翁を演じた金春安明さんについて,とりわけ強くしていたところでした(そのあたりのことは,いずれ別の機会に).それだけに元日の朝の「十二月往来」は,私のツボに見事にはまりました.

2006年1月 3日

2006年の年賀状[2]

(「2006年の年賀状[1]」のつづき)

文学作品からの引用のほかに,日本の家紋を配置したのも,「春の夜の夢:薩摩琵琶と朗読の夕べ」と共通する手法です.

「春の夜の夢」では,「耳なし芳一」が重要なテーマであったことから,平家の家紋・揚羽蝶紋を,夜の海上に舞わせました.今度は,引用した謡曲「鶴亀」にちなんで,鶴と亀の舞姿を表現するために,鶴亀それぞれの家紋を用いたのです.

今回使用した鶴紋は,タンチョウヅル,すなわち「鶴亀」詞章に見られる「丹頂の鶴」が,翼を広げたさまを円形に収めたもの.そのかたちだけで,鶴の舞を想い起こさせるに充分であるように思いました.鶴紋の色は「丹」の色としました.

一方,亀として登場させた亀甲紋は,文字通り亀の甲羅の模様を意匠化したもの.ちなみに,亀甲紋の中央に「萬」の一字を加えれば,大手醤油醸造会社のキッコーマンの商標,すなわち「亀甲萬」のできあがりです.家紋としては揚羽蝶紋と肩を並べるほど具象的なかたちを持つ鶴紋と,好対照をなしています.ただ,鶴紋の持つ躍動感に対し,亀甲紋ひとつだけではあまりに即物的に見えたため,ふたつの亀甲紋を甲羅の模様のように並べることで,動物らしさを出してみました.色はまさしく「緑の亀」.

鶴亀の家紋に加えて,大和絵系統の屏風絵や絵巻物に見られる雲や霞の表現を取り入れました.大和絵における雲霞は,ときには画面に広がりを持たせ,ときには華やかな装飾となり,ときには場面転換の役割を果たし,ときには画面の空白を補うなど,大変重宝な存在です.今回は装飾的な意味合いが濃い雲霞なのですが,はからずも鶴と亀が雲の上で舞っているかのような画面を作り出しました.「鶴亀」は一応,地上世界の物語ではあります.しかしながら,鶴と亀が皇帝の長寿をことほいで舞うという,幻想的とも解釈ができる場面を描くには,こうした表現もまた面白いのではないかと思います.

2006年1月 2日

2006年の年賀状[1]

2006年分の年賀状の画像

今年の年賀状のデザインについて,ひとつ書いておきましょう.

昨年分は干支にちなんでかわいいニワトリさんをあしらってみました.しかし,先月のにゅーすに記したような事情で,今度は戌年だからと言ってお犬さまを出す気は全くなかったわけです.

変わって出てきたのが鶴と亀.「鶴は千年,亀は万年」と言いますが,干支が何であろうと年賀状の図案として通用する「千人力,万人力」の動物でもあります(笑).

さて,その鶴と亀をどのように表現するか? まず思い浮かべたのが「鶴亀(つるかめ)」という謡曲の存在でした.昨年の「春の夜の夢:薩摩琵琶と朗読の夕べ」のチラシで,文学作品からテクストを引用して,それをデザインの素材にした経験から出た発想です.

「鶴亀」の物語は,月宮殿で年始の行事に臨む中国の皇帝(唐の玄宗とされる)が,恒例である鶴と亀による皇帝の長寿を祝う舞を見て,喜びのあまり自らも舞った後,長生殿に帰っていく,というもの.至ってシンプルながら,新年と長寿の祝意に満ちた,おめでたい謡です.

手もとの謡本『観世流謡曲百番集』(能楽書林,1951)を典拠に,鶴と亀による中ノ舞から終わりまで,少々長いのですが,一部を省略しつつ引用しました.なお,年賀状では漢字に正字体を用い,仮名遣いは歴史的仮名遣いのままとすることで,古語の格調を出すとともに,一方で詞章も味わってもらおうと考え,すべての漢字にルビを振りました.

千代のためしの数々に
何を引かまし小松の
緑の亀も舞ひ遊べば
丹頂の鶴も一千年の
齢を君に授け奉り
庭上に参向申しければ
君も御感の余りにや
舞楽を奏して舞ひ給ふ
宮殿の白衣の袂の
いろ妙なる花の袖
秋は時雨の紅葉の葉袖
冬は冴えゆくの袂を
翻す衣も薄紫の
雲の上人の舞楽の声々に
霓裳羽衣の曲をなせば
山河草木国土豊に
千代万代と舞ひ給へば
官人駕輿丁御輿を早め
君の齢も長生殿に
還御なるこそめでたけれ

つづく

2005年12月30日

新年はTVとラジオで能楽鑑賞

いよいよ2006年.新春3が日の愉しみのひとつは,TVとラジオでの能楽鑑賞です.

で集めた,地上波の全国放送の情報をザッとまとめておきます.

新春能狂言

ETV,7:00-8:00

1月1日(日) 能「翁(おきな) 十二月往来・父尉・延命冠者」金春流 翁:金春安明
ツレの翁:高橋忍,金春憲和
千歳:茂山正邦
三番三:大藏彌太郎
笛:杉市和
小鼓:亀井俊一
大鼓:安福建雄ほか
1月2日(月) 狂言「萩大名(はぎだいみょう)」大蔵流 シテ:茂山千作
アド:茂山千之丞,茂山忠三郎
狂言「無布施経(ふせないきょう)」和泉流 シテ:野村又三郎
アド:野村小三郎
1月3日(火) 能「春日龍神(かすがりゅうじん)」観世流 シテ:梅若万三郎
ワキ:森常好
笛:松田弘之
小鼓:幸清次郎
大鼓:柿原弘和
太鼓:観世元伯

情報を得てビックリしたのが「翁」の「十二月往来(じゅうにつきおうらい)・父尉(ちちのじょう)・延命冠者(えんめいかじゃ)」という小書き(特殊演出).

「十二月往来」は,通常の演出では1人である翁が3人も現れて,12か月の風物についてロンギ(問答)をするというものだそうです.装束も白一色のものが用いられるとか.金春流は時々上演しているようですが,TVでは滅多に見られないのではないでしょうか.

また,「父尉・延命冠者」は,古くは「翁」の中で,千歳(せんざい),翁,三番三(さんばそう.和泉流では三番叟)とともに舞われていたものです.今日,通常の演能では省略されていますが,小書きとして伝わります.翁(おそらく3人のうち1人でしょう)の役者が父尉,千歳の役者が延命冠者をそれぞれ演じる,というのを何かで読んだおぼえがあります.

新春謡曲狂言

NHK-FM,11:00-11:50

1月1日(日) 番囃子「高砂(たかさご)」喜多流 シテ:粟谷菊生
ワキ:出雲康雅
笛:一噌仙幸
小鼓:鵜澤速雄
大鼓:柿原崇志
太鼓:小寺佐七
1月2日(月) 狂言「鐘の音(かねのね)」大蔵流 シテ:善竹忠一郎
アド:善竹隆司,善竹隆平
狂言「田植(たうえ)」和泉流 シテ:野村萬
立衆:野村万蔵,小笠原匡,野村扇丞,吉住講
狂言小謡「貝尽し(かいづくし)」和泉流 謡:野村萬,野村万蔵,小笠原匡,野村扇丞
1月3日(火) 番囃子「箙(えびら)」金剛流 シテ:金剛永謹
ワキ:豊嶋三千春
笛:森田保美
小鼓:曽和尚靖
大鼓:河村大

それから山陰地方では,

新春狂言

山陰中央テレビ,1月1日(日)4:35-5:30

なるものもあるようですが,詳細は把握していません(爆).フタを開けてみてのお楽しみということで…….ほかにも放送されの地方があるのではないでしょうか.

2005年12月29日

横浜能楽堂カレンダー

横浜能楽堂の来年のカレンダーをいただきました.

能楽堂のカレンダーだけに,横浜能楽堂での公演の写真が月替わりで載っているわけですが,その内訳が面白い.

横浜能楽堂2006年カレンダー
1月 狂言 墨塗(すみぬり) 善竹十郎
2月 狂言 庵梅(いおりのうめ) 山本東次郎
3月 狂言 仏師(ぶっし) 茂山七五三
4月 舞踊 藤娘(ふじむすめ) 藤間恵都子
5月 狂言 八尾(やお) 山本則俊
6月 聲明 大曼荼羅供 庭賛~大五願 高野山声明の会
7月 狂言 文蔵(ぶんぞう) 山本則直
8月 狂言 粟田口(あわたぐち) 野村萬斎
9月・表紙 砧(きぬた) 梅若六郎
10月 新作狂言 椎茸典座(しいたけてんぞ) 茂山千作
11月 狂言 鎌腹(かまはら) 山本泰太郎
12月 狂言 木六駄(きろくだ) 野村万作

カレンダーを下さった方からは,「能楽堂のカレンダーなのに能の写真が少ない」とあらかじめうかがっていましたが,本当に少なかったですね(笑).表の通りほとんどが狂言で,うち4点が山本東次郎家(2,5,7,11月)というのが,この能楽堂らしいところです.横浜能楽堂の子ども向けワークショップを毎年受け持っているのが同家です(数年前にETVの『芸術劇場』で見ました).

もうひとつ注目すべきは,能・狂言のほかに舞踊と聲明の写真も含まれている点.能・狂言の面白い公演の情報に接するとき,それが横浜能楽堂の自主事業であることが少なくありません.例えば聲明の写真は,昨秋「声」の藝能をテーマとする企画公演で,能・狂言の謡,韓国やタイの宮中歌曲とともに上演された折のものではないかと思います.

横浜能楽堂はこのようにソフトウェアとして目を見張るがありますが,何と言っても舞台が美しい.数寄屋造を思わせる繊細な造作.もとは旧加賀藩主・前田家の舞台(1876)だっということで,鏡板には松とともに,前田家の紋所である梅も描かれ,これがしっとりとした風情を出しています.カレンダーには映っていませんが,1996年に横浜能楽堂に移されてから加えられたこけら葺きの屋根も,舞台と調和していて気持ちよい.もっともこれは,あくまで写真や映像から受けた印象.ぜひこの目で見たいものです.

2005年12月22日

本から始める能楽鑑賞[1]

ラジオで能楽鑑賞」「TVで能楽鑑賞」のつづきです.

小学校に入る少し前のことではなかったかと思います.両親に買い与えられた『学習百科大事典アカデミア』(全23巻,コーキ出版,新訂初版1980)の1巻に,『国語辞典』がありました.その口絵のうちの1頁には,「文楽・歌舞伎」とともに「能楽」という項目が立ち,能の定義,「紅葉狩(もみじがり)」の舞台と「羽衣(はごろも)」のシテの写真,能舞台の平面図が掲げられていました.中でも「紅葉狩」の写真に映し出された,後シテ率いる鬼女軍団が,舞台中央から橋懸にかけてズラリと並ぶ場面は,左右非対称の舞台の形状が引き立って見え,強い印象を受けたものでした.

それにもかかわらず,祝日の午前中の能TV放送に見向きもしなかったのには,今となっては不思議でなりませんが,ともかくこの世に能というものがあるのを知ったのは,このような経緯でした.

小学4年になると,必修のクラブ活動がありました.私は希望空しく散って,百人一首のカルタ取りを覚えることとなりました.それがきっかけだったのでしょう,学校の図書室で,日本の古典文学のあらすじを児童・生徒向けに紹介する本のシリーズを読み始めました.その中に,『お能・狂言物語』(初版1956?)と題する1冊を見つけました.著者は野上彌生子(1885-1985).後に知りましたが,能楽研究でも知られる夫・野上豊一郎とともに,漱石に師事した作家です.

書名には「能楽」でも「能」でもなく,「お能」とありました.さらには「狂言」の2文字が続いています.しかしおそらく国語辞典の口絵で見た能のことだろう,祝日になるとノッポさんやチョーさんを中止にして放送する,にっくき(笑)能だろう,と直感したのかも知れません.何とも気になって手にとり,パラパラと頁を繰りました.

すると,「西王母(せいおうぼ)」「小鍛冶(こかじ)」「実盛(さねもり)」……といった曲の物語が,諸国の昔ばなしを集めた本のようにいくつも,やさしい言葉で続きます.とりわけ脇能物や,これに準じて祝言性の高い「小鍛冶(こかじ)」「羽衣(はごろも)」といった曲に,清々しい読後感を覚えました.

「しかしかえしたら,すぐ,それで天にあがってしまって,舞は見せてくれないでしょう.」
「うたがいぶかい心は,人間のもつもので,天人は,うそなどは言いません.」
きっぱりと決めつけられて,伯竜は,すっかりはずかしくなり,では,どうぞ,と言って羽衣をわたしました.
「羽衣」野上彌生子『お能・狂言物語』

そうした読んで心地よい物語が,舞台上でどのように演じられるものなのか? ということに初めて考えが及んだときこそ,祝日の朝のTVが待ち遠しくなった瞬間であったように思います.

(つづく)

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2005年12月10日

能に親しむ―仕舞と講演の集い:金剛流能楽師・種田道一先生をお迎えして(一畑薬師)

京都を中心に活動する金剛流シテ方・種田道一(たねだ・みちかず)さんによる仕舞と講演の会が,一畑薬師(一畑寺)で開催されるという情報が入りました.

出雲地方で金剛流の能に触れる機会が一般向けに設けられるのは,珍しいことではないかと思います(ホール能はほとんど観世流,たまに喜多流といった具合ですから).「舞金剛」と呼ばれる華麗かつ豪壮な舞に触れる貴重な機会になるのかも知れません.

私は未読ですが,種田さんには『能と茶の湯』(淡交社,2002)と題する,能と茶道とのかかわりを紹介する著書があります.出雲も京都と同じく茶の湯が盛んな土地柄,一度は読みたいとかねて目をつけていたところですが,ついやり過ごしてしまいました.この折に読むとしましょう.松江市立図書館出雲市立図書情報センター等が所蔵しています.

チラシ(一畑薬師のwebからダウンロード可能)によると,種田さんは,

現在毎月一回、出雲地域へ能の指導に来ている.

とのこと.これは私,初めて知りました.

夜の催しということで,平田生活バス一畑薬師線の時刻を確認しましたが,帰りのバスがありませんでした.自動車免許のない生活でも普段困むことはないのですが,今回ばかりは参りました(シクシク).お出かけは自家用車でどうぞ…….

講師
種田道一(金剛流シテ方)
日時
2005年12月15日(木)18:30-20:00(開場18:30)
場所
一畑寺・法堂(はっとう)(出雲市小境町)
会費
1,000円(おにぎり,お茶代を含む)
内容
能のお話
仕舞の披露
能面の解説
能に親しむ
参加申込締切
12月12日(月)
参加申込・問い合わせ先
平田ロータリークラブ事務局
電話:0853-63-3232
FAX:0853-63-5365
詳細
http://www.ichibata.org/
能と茶の湯
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2005年11月23日

豆腐連歌

最近刊行された松岡心平編『ZEAMI:中世の芸術と文化』第3号(森話社,2005)に,詩人の高橋睦郎さんが茂山千五郎家のために書き下ろした新作狂言「豆腐連歌(とうふれんが)」の詞章が掲載されています.

近年とみに知られるようになりましたが,茂山千五郎家には「お豆腐主義」「お豆腐狂言」と呼ばれる“家訓”があります.これは,狂言は能舞台でのみ演じるものとされた時代に,会合の余興にも出向いて狂言を演じた二世茂山千作(1864-1950.四世千作,二世千之丞さんの祖父)が示した,

〔お豆腐〕それ自体高価でも上等でもないが、味つけによって高級な味にもなれば、庶民の味にもなる。お豆腐のようにどんな所でも喜んでいただける狂言を演じればよい。
茂山千五郎家のweb

という考え方に由来するそうです.目指すは万人に愛される狂言,といったところでしょうか.

あとがきによると,もともと高橋さんに対する茂山千之丞さんからの依頼は,「お豆腐狂言」をテーマにした狂言小謡(「豆腐連歌」に併載)を書いて欲しい,というものだったそうです.ところが高橋さんの脳裏には,木綿豆腐と絹豆腐が言い争う姿が思い浮かび(笑),ついに新作狂言も併せて誕生となったとのこと.

人間も動物も植物も出ず,登場するのは食品だけ.互いを邪道の豆腐と批判し合う木綿豆腐と絹豆腐が,問答の末に和解し,その印として連歌を詠み始める……というのが「豆腐連歌」のあらすじですが,最後の最後にアッと驚く結末が待っています.こんな終わり方する狂言,私は見聞きしたことがありません.是非とも掲載誌で確認しましょう.

2005年11月14日

TVで能楽鑑賞

昨日のラジオに続いて,今日はTVでの能楽鑑賞の話です.

おとといの午後は,ETVで,観世流の能「定家(ていか)」(シテ:浅見真州)を見ていました.放送時間は2時間.能楽研究者による10分余の解説に続いて,時間までたっぷり演能が放送されました.

近年ETVでは,2か月に1回程度,土曜日の午後に1時間半から2時間,能楽の舞台の模様を見ることができますが,私が小・中学生の時分,1980年代から1990年代初めにかけては,祝日の午前中に1時間程度放送されるのが常でした.放送の日数は明らかに今の方が少ないわけですが,1回あたりの放送時間が延びたことで,「定家」のように上演時間が2時間近くに達する曲も,ノー・カットで愉しめるようになったのではないかと思います.しかも,時間に余裕があれば演者のインタヴューや,一調・一管といった短いプログラムも入ることがありますから,ちょっとしたお得感も得られます.

正月3が日には,やはりETVで『新春能狂言』の放送が毎日あります.これは今でも1時間の番組で,放送時間の都合上,前シテが中入して,後シテが出るまでをつなぐ間狂言(あいきょうげん)が,しばしば尊い犠牲となります(爆).そうは言いながら,私にとってはNHK-FMの『新春謡曲狂言』とともに,三が日の大きな愉しみです.

さて,家族に謡曲を習う者がいるわけでもなく,能楽とはまるで縁のない家庭に育った私にとって,TVは能楽との数少ない接点でした.

かつて能楽番組を放送した祝日の午前中という時間帯は,(今でもそうですが)平日であれば学校教育番組の時間です.しかし,学校ではチャンネル権を先生に独占されているため,“ノッポさん”とか“クラさん”とか“チョーさん”が出てくる番組を,自由に見ることはかないません.その点休日は,朝から好きな番組を見られるチャンスということで,9時ごろETVにチャンネルを合わせるわけです.

ところが,画面に映るのは“ノッポさん”でも“クラさん”でも“チョーさん”でもなく,大きな松が描かれた板をバックに,仮面をつけた着物の人たちが現れて何かしています.仮面の人たちの後ろでは,ヨーとかホーとか言いながら,丸い板のようなものを叩く人が約2名.舞台の脇には黒い服を着た何人ものオッサンたちが,低い声で耳慣れないメロディーを歌っています.歌っている文句が字幕に映し出されているものの,意味がサッパリわからない.

「ニャ~ンダ,ノッポさんも休みなのか」

能の映像を初めて見たときの印象は,実はこんな程度のものでした.この世に能というものがあることは,小学校に入るか入らないかといった時期に早くも,我が家にある日本語辞典の口絵で見て知っていましたが,“ノッポさん”たちを見られなかった怨みが相当強かったのか(笑),能に興味を持つまでには至りませんでした.

そんな私も,やがては祝日の能楽番組を心待ちにする風変わりな小学生へと化けていくことになるのですが,それは本との出会いを抜きに語ることはできせん.後日改めての話題としましょう.

(「本から始める能楽鑑賞[仮題]」につづく)

2005年11月13日

ラジオで能楽鑑賞

日曜日の朝は,NHK-FMの『能楽鑑賞』(7:15-8:00)で眼を醒まします.

現在,地上波の全国放送で定時に視聴できる能楽関係の番組は,おそらく『能楽鑑賞』だけかと思います.能楽公演の少ない地に住む者にとっては,日ごろ能楽に親しむ貴重な機会です.

主にシテ方五流の素謡(すうたい),すなわち能の謡曲部分を毎回1,2番,放送のために収録して聞かせてくれます.囃子もなく,勿論映像もない代わりに,謡の節回しや言葉にじっくり耳を傾けることができます.謡を習う素人のお弟子さんのうちには,お手本として聴く人も多いかも知れません.寝ぼけ眼でウツラウツラしながら聴くのもいいでしょう(笑).かく言う私もそれを実践するひとりなのですが(笑),時には手もとの謡本『観世流謡曲百番集』(能楽書林,1951)に書かれた詞章を目で追いつつ愉しみます.

また2か月に1回程度の割合で,狂言も聴くことができます.時には,ワキ方の謡や舞台の録音,亡くなった名人たちの藝が放送されることもあります.

今朝は観世流の謡曲「紅葉狩(もみじがり)」(シテ:山本順之)を聴きました.能・狂言には季節の定まった曲が多くありますから,それを反映して,放送でも折々にふさわしい選曲がなされています.

正月3が日には,同じくNHK-FMで『新春謡曲狂言』と題する特別番組が毎日放送されます.主に取り上げられるのは,脇能,脇狂言と呼ばれる祝言性の高い曲.この番組での謡曲は,基本的に素謡ではなく,囃子を伴う番囃子ですから,新春らしい晴れがましさが高まります.

(「TVで能楽鑑賞」につづく)

2005年11月 7日

「親子で楽しむ能の世界:能楽ワークショップ in 一風亭」に行く

会場外観の写真

写真:会場のやすぎ懐古館一風亭は,古い商家を改装した建物.安来の商業の中心地であった安来市安来町大市場地区には,このような伝統的な商家が多く残っています.

昨日のことになりますが,先日御紹介しました「親子で楽しむ能の世界:能楽ワークショップ in 一風亭」に行ってきました.

講師は,私が広告デザインを担当している「松江・能を知る集い」と同じく,槻宅聡さん(能楽森田流笛方/安来市出身)と安田登さん(能楽下掛宝生流ワキ方).テーマもこのおふたりならではの“能の身体感覚”体験ということで,さながら安来版「能を知る集い」といったところ.ただ,私は松江ではスタッフの一員でもありましたので,純粋に参加者としてかかわったのは今回が初めてでした.

同じテーマとは言いましても,“体験”内容は新しいもの.「なぜ能楽師には,高齢でも現役の人が多いのか?」「小さな穴しか開いていない能面の下で,どのように呼吸しているのか?」といった問題を立つつ,能楽師の舞台上の姿勢や呼吸,発声,足の運びなどを教わりました.

私は自慢じゃありませんが,体を使って覚えることにかけては自信が……まるでありませんので(自滅),予想の範囲とはいえ,ずいぶん悪戦苦闘しました.時間をかけて少しずつ息を吐く.腰から上が揺れないように歩く,大きく,かつ美しい声を出す……日常生活にはない動きをするわけですから.そうは言いながらも,体にまとわりつく重いものが,少しは古くなったような気がして,気持ちよかったです.静かに座って呼吸するうちに聞こえた雨だれの音には,昔ながらの野外の演能を想像させられました.ただ,足がしびれるのには,いつもながら参りました(痛).素人弟子への道のりはけわしそうです(笑).

ワークショップに続く交流会のしめくくりに,槻宅さんのアシライで安田さんが舞い,次いで槻宅さんの一管.安来みやげをいただきました.

参加者のうちには,「松江・能を知る集い」にお越し下さった方や,先月の「松江松聲会」の囃子体験で笛を上手に吹いていらっしゃった方もおいででした.この地域での能楽関係の催しで,またお目にかかりたいものです.

「親子で楽しむ……」と銘打ちながら,オトナの参加者が多い会でしたが,中には能に強い関心を寄せる小学生もいまして,何やら昔の私を見ているような思いがしました.しかも,私と違って大いに体が動きそうですから,この小学生,ひょっとしたら将来どなたかに稽古をつけてもらう日が来るかも知れません.

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2005年10月31日

親子で楽しむ能の世界:能楽ワークショップ in 一風亭

私が広告デザインを担当しました「松江・能を知る集い」の講師陣による能のワークショップが,安来で開催されるそうです.参加申込の締切が今日ということですが,見学だけでも可能とのことですから,興味お持ちの方は,主催者に問い合わせてみるとよいでしょう.松江と同じく,能の身体感覚を体験できる,能のワークショップの中でもこの講師陣ならではの内容になる模様です.

日時
11月6日(日)13:30-17:00
会場
やすぎ懐古館「一風亭」(安来市安来町大市場)
講師
槻宅聡(能楽森田流笛方/安来市出身)
安田登(能楽下掛宝生流ワキ方)
参加資格
高校生以下のワークショップ参加者とその親(1人での参加にも対応)
募集人員
ワークショップ参加:40名
観覧:若干名
申込多数の場合抽選
参加費
大人:500円
高校生以下:無料
内容
第1部:体験ワークショップ(13:30-15:30)
  • 声を出してみよう(謡、掛け声)
  • ゆっくりと歩こう(構えと運び・すり足)
  • 朗読・群読
  • 能面をつけてみよう
  • 能のチャンバラ(斬組)
第2部:交流会(15:45-17:00)
用意するもの
白足袋(白い靴下で代用可)
申込締切
10月31日(月)必着
主催
安来市まちづくり協議会
電話:090-3377-7137(米原)
fax:0852-27-1392(足立)
e-mail:yonehara-kenji@pref.shimane.lg.jp
詳細
http://www.city.yasugi.shimane.jp/p/1/5/12/2/1/9/

2005年10月24日

しまね大田楽・真伎楽

パンフレットの写真

昨年に引き続き,島根県民会館で「しまね大田楽」の上演がありました.私は今年初めて見に行きました.

昨年6月に亡くなった和泉流狂言方の五世野村万之丞さん(八世野村万蔵を追贈)は,もうひとつの顔である「総合芸術家」としての活動の大きな柱として,廃絶した日本の藝能の復元に取り組んでいました.中でも,田植の際に催された舞や囃子に由来し,平安・鎌倉時代に大流行した田楽(でんがく)を再興した「大田楽」は,万之丞さんの代表的な仕事です.

今年の「しまね大田楽」は,飛鳥・奈良時代にかけて仏教寺院の法会などで上演された伎楽(ぎがく)を,これも万之丞さんによる復元作業を経た「真伎楽」と併せて上演されました.いずれも一般公募した多数の地元市民が,キャストやスタッフとして参加したそうです.

「真伎楽」の印象をひと言で記せば「シルクロードの終着駅」.奈良の正倉院と取り違えたわけではありません(笑).中国,朝鮮からインド,東南アジアまで,アジア各地の藝能が,次々に繰り広げられたかのようでした.仏教伝来から,遣隋使・遣唐使,東大寺大仏の開眼供養に至る,国際色豊かな古代日本を想像させるのに,充分なものがありました.

中学校に上がる前だったのか後だったのかは忘れましたが,1980年に催された東大寺大仏殿のいわゆる「昭和の大修理」の落慶法要の様子を,TVでほんの一部だけ見たことがあります.あまたの僧侶が唱える読経(と呼んぶのが正しいかどうかはわかりませんが)のメロディーや,ユーモラスな表情をたたえる伎楽面に頭をスッポリと覆った人々が登場する場面を,「真伎楽」を見ながら久々に思い出しました.

「大田楽」と言えば,私はNHK大河ドラマ『太平記』(1991)を思い出さずにはいられません.足利尊氏の生涯を描いた『太平記』は,万之丞さんが本名の野村耕介を名乗っていた時期に藝能考証を手がけた作品です.第1回最初のシーンは,有力御家人・安達泰盛の館での田楽の上演.高々と建てられた竿によじのぼって軽業を披露する田楽法師が,館に押し寄せる軍勢を目撃する…….泰盛が北条得宗の内管領・平頼綱に討たれる霜月騒動が,そのように描かれました.その後,ストーリーでは白拍子の一座が重要な役どころとして活躍,やがて藝態を変えて今日の能に近いものを生みだし,終盤には一座を率いる夫妻の息子として若き日の観阿弥も登場しました.最終回は,尊氏が妻と佐々木道誉とともに「三番叟」(舞ったのは万之丞さん本人)を観ながら生涯を回想する場面で終わるという具合に,1年を通じてドラマの進行とともに中世藝能史絵巻を見せていました.中でもドラマの前半は,田楽狂いとして知られる鎌倉幕府の執権・北条高時の時代ということで,随所に田楽の場面が盛り込まれました.『太平記』を通じて観た演技,耳になじんだ囃子の音を,10数年の歳月を初めて直に接することとなり,大変懐かしい思いをしました.

さて,2003年に万之丞さんの演出で観た「復元出雲阿国歌舞伎」に続き,今回「大田楽」「真伎楽」を通じて改めて気づいたのは,復元した藝能を一般市民の観賞に供する際の万之丞さんのスタンスです.400年前,出雲の阿国が四条河原で上演したとされる「かぶき踊り」を始めとする初期の歌舞伎を甦らせた「復元出雲阿国歌舞伎」では,池乃めだかさんが定番のギャグを披露しました.「真伎楽」では日本を含むアジア各地の獅子舞の共演が盛り込まれました.「大田楽」に至っては,一輪車も登場しての中国雑伎まで観ることとなりました.かぶき踊り,伎楽,田楽を,史料に基づいて厳密かつ忠実に再現しようとすれば,眼中に入りそうにない要素を敢えて取り入れている.この点に,単なる(と言っても困難を極める作業と思われますが)復元にとどまらない,現代のエンターテインメントとしての藝能を万之丞さんは見せようとしたのではないか,と私は思うのです.サドルの位置高い一輪車に乗りながら,足だけを使っていくつもの椀を頭の上に乗せていく藝での,舞台・客席一体となった盛り上がりには,現代のエンターテインメントとしての「大田楽」の成果を感じました.あれはTVの生放送で一度見たことがありましたが,ナマの臨場感と昂揚感は格別でした.

2年続いての「しまね大田楽」となったわけですが,今後どのような方向に進むのか,興味あるところです.来年以降も有料公演として続けるのであれば,毎年同じ内容では観客もキャストもさすがに飽きてしまうでしょう.今年は「真伎楽」を併せて上演し,1週間前には兄弟プログラムのような位置づけで,朝鮮の「鳳山仮面劇(ボンサンタルチュム)」の公演もあり,一定の工夫のあとがうかがえました.さて,次はどんな手を打ってくることでしょうか.

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2005年10月22日

神楽のシンポジウムに行く

パンフレットの写真

先日タヌキにゅーすで紹介した「神楽:神々の舞・誕生の謎に迫る(第5回神在月古代文化シンポジウム)」に行ってきました.

神楽は小学生のころ,近所のお寺の祭礼で石見神楽を見たほかは,本の写真やTVで出雲神楽をチラッと見かけた程度です.いずれもスサノヲノミコトのヤマタノオロチ退治を扱った神話劇でした.そのため,神楽というのは出雲神話に取材して演じられる藝能だとばかり思っていたのですが,とんでもない勘違いでした.

演者が仮面と装束をつけて物語の登場人物に扮して演劇を繰り広げるのも,出雲神話をもとにした演目を上演することも,能楽の能の影響下で成立したということ.島根県内では地元の神話に基づく演目の上演が多いけれども,広島県の芸北地方では,同じ能の影響でも「紅葉狩」などの神話とは関係のない鬼退治の神楽が盛んに上演されるなど,ひとくちに「神楽」といっても地域ごとの特徴がある…….

学界では定説なのでしょうけれども,地元の神話をもとにした地元の神楽しか知らなかった私には,初めて知ることばかりでした.

ところで,小田幸子さん(東京都文化財研究所)が能楽研究の立場から,廃絶曲や上演記録のみが伝わる演目をを含めて,出雲を舞台とした能の紹介がありました.現行曲の「大蛇(おろち)」と同じくオロチ退治を扱った廃絶曲に「神有月(かみありづき)」があるそうです.これは「大蛇」が現在進行形で物語が進むのに対し,神社(ここでは出雲大社)に参詣した大臣の前に祭神(スサノヲノミコト)たちがあらわれ,神話を再現して見せるという,脇能らしさたっぷりの形式だとか.せめて詞章の読み比べて,地元神楽でおなじみの題材が,能ではどのように演じられたのか,深く知りたいところです.

2005年10月16日

松江松聲会の能楽入門講座

先日紹介しました松江松聲会の発表会に行きました.時間の都合で能楽体験講座だけ聴いてきました.

同会を指導する井上裕久さん(観世流シテ方)のお話は,昨年の講座と同じく,能とは何か/能の歴史→能の面と装束→装束つけと舞の実演といった流れでしたが,例に挙げた面と装束が,昨年は女性の役ものだったのに対し,今年は大河ドラマ「義経」にちなむとかで,修羅物の武将の役のものでした.

修羅物の武将は,源氏と平氏にほぼ二分されます(「田村」の坂上田村麿のような例外もありますが).烏帽子(えぼし)の折り方の違いで,源氏方(左折り)と平氏方(右折り)の見分けがつくことは知っていましたが,実はそれ以外にも装束つけで差別化を図っているのだそうです.

お話を簡単にまとめると,図のような感じになります.

修羅物の武将の装束づけの違い
  源氏 平氏
烏帽子の折り方 左折り 右折り
平太 中将
扇面の絵柄 日の出 日の入り
小袖 厚板 縫箔(ぬいはく)
平切(ひらぎれ) 大口
法被(はっぴ) 袷(あわせ)の法被 長絹(ちょうけん)
または単(ひとえ)の法被
腰帯 白地に黒の紋 刺繍の紋

流儀や演目,演出などにもよるのでしょうが,源氏方は荒々しい坂東武者らしさ,平家方は公達(きんだち)と呼ばれただけに繊細優美なさまを表現するために,細かなところにまで工夫をしているようです.能を見る上での楽しみが,またひとつ増えました.

他のシテ方をモデルに装束づけの実演ののち,そのまま「八島(やしま)」の義経の舞の一部が披露されました.源氏の大将だけに豪壮な舞で,正中(しょうなか:舞台中央)から脇座前にググンと迫ってきたのには,最前列の脇柱前(舞台下手前方の柱)に座っていた私,ビビリました(笑).これは前列で見る者だからこそ味わえる特権ですよ,きっと.

続いて笛方と太鼓方を迎えて囃子の解説に移り,笛と太鼓を実際に.私は笛を吹いてみましたが,ほとんど音が出ませんでした(シクシク).よほど息が足りなかったのでしょうか?? 同じく笛を体験したうちに上手な方がいらっしゃって,何ともうらやましい限りでした.

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2005年10月12日

狂言師がプロレス??

何でもプロレス・デビューする狂言師がいるらしいのですが(nikkansports.com),このことをどう受け止めたらいいのでしょうね.

世の中そういう人がいても面白い.でもね,数々の公演トラブルや,流儀の宗家の継承問題を抱える中で,自らの正当性・正統性を主張し続ける以上は,本業でひとかどの存在になろうとする姿を見せてもらいたい.だけど,どんどんその道から遠ざかってるような気がする(もう引き返せないのか?).藝能マスコミに香ばしいネタ提供してばかりの人(たち)の,何に期待していいんだかわからない.

もはや能楽の話題として触れることではないけれど,こんな形で能楽師が世間話のタネになるのはザンネンだってことを言うために,敢えてメモしておきます.

2005年10月 8日

神楽:神々の舞・誕生の謎に迫る(第5回神在月古代文化シンポジウム)

神楽のシンポジウムの紹介なのに,記事のカテゴリーが「能楽」たぁどーゆーこっちゃ? と思われても不思議ではないのですが,「島根に伝わる出雲・石見・隠岐神楽のなかに『能』舞い(ママ)の痕跡を探る」ことが主要テーマのひとつらしいですから,どんな中身になるのやら,注目してみましょう.

日時
10月22日(土)13:00-17:00
会場
大社文化プレイスうらら館だんだんホール(出雲市大社町杵築南)
入場料
無料(事前申込が必要)
オープニングイベント
13:00 乙立神楽保存会による公演
基調講演
13:30 民俗芸能史研究の視座からみた「神話劇」神楽の成立と展開
山路興造(民俗芸能学会代表理事.芸能史・民俗芸能研究)
パネルディスカッション
15:00 「神話劇」神楽の誕生の謎を解き明かす
コーディネーター:山路興造
パネラー:小田幸子(東京文化財研究所芸能部調査員.能狂言研究)
神崎宣武(旅の文化研究所所長.民俗学)
三村泰臣(広島工業大学共同研究機構東アジアの神楽プロジェクト研究センター長.哲学・民俗学)
中上明(古代文化センター主任研究員.民俗学・神楽)
主催・申し込み先
島根県古代文化センター
詳細
http://izumo-rekihaku.net/?ID=185

2005年9月16日

松江松聲会謡曲・仕舞発表会

京都在住の観世流シテ方・井上裕久さんが指導する松江松聲会から,今年も発表会の案内が届きました.簡単に紹介します.

日時
2005年10月16日[日]10:15-(9:45開場)
会場
島根県立美術館ホール
主催
松江松聲会
共催
松江市文化協会

第1部:能楽入門体験講座「能の世界を覗いてみませんか」

時間
10:15-
講師
井上裕久(観世流シテ方)
森田保美(森田流笛方)
井上敬介(観世流太鼓方)

第2部:謡曲・仕舞発表会

時間
12:30-
全16番
ほか番外祝言として「猩々」井上裕久,森田保美,井上敬介