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2006年1月 3日

2006年の年賀状[2]

(「2006年の年賀状[1]」のつづき)

文学作品からの引用のほかに,日本の家紋を配置したのも,「春の夜の夢:薩摩琵琶と朗読の夕べ」と共通する手法です.

「春の夜の夢」では,「耳なし芳一」が重要なテーマであったことから,平家の家紋・揚羽蝶紋を,夜の海上に舞わせました.今度は,引用した謡曲「鶴亀」にちなんで,鶴と亀の舞姿を表現するために,鶴亀それぞれの家紋を用いたのです.

今回使用した鶴紋は,タンチョウヅル,すなわち「鶴亀」詞章に見られる「丹頂の鶴」が,翼を広げたさまを円形に収めたもの.そのかたちだけで,鶴の舞を想い起こさせるに充分であるように思いました.鶴紋の色は「丹」の色としました.

一方,亀として登場させた亀甲紋は,文字通り亀の甲羅の模様を意匠化したもの.ちなみに,亀甲紋の中央に「萬」の一字を加えれば,大手醤油醸造会社のキッコーマンの商標,すなわち「亀甲萬」のできあがりです.家紋としては揚羽蝶紋と肩を並べるほど具象的なかたちを持つ鶴紋と,好対照をなしています.ただ,鶴紋の持つ躍動感に対し,亀甲紋ひとつだけではあまりに即物的に見えたため,ふたつの亀甲紋を甲羅の模様のように並べることで,動物らしさを出してみました.色はまさしく「緑の亀」.

鶴亀の家紋に加えて,大和絵系統の屏風絵や絵巻物に見られる雲や霞の表現を取り入れました.大和絵における雲霞は,ときには画面に広がりを持たせ,ときには華やかな装飾となり,ときには場面転換の役割を果たし,ときには画面の空白を補うなど,大変重宝な存在です.今回は装飾的な意味合いが濃い雲霞なのですが,はからずも鶴と亀が雲の上で舞っているかのような画面を作り出しました.「鶴亀」は一応,地上世界の物語ではあります.しかしながら,鶴と亀が皇帝の長寿をことほいで舞うという,幻想的とも解釈ができる場面を描くには,こうした表現もまた面白いのではないかと思います.

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