2006年の年賀状[1]
今年の年賀状のデザインについて,ひとつ書いておきましょう.
昨年分は干支にちなんでかわいいニワトリさんをあしらってみました.しかし,先月のにゅーすに記したような事情で,今度は戌年だからと言ってお犬さまを出す気は全くなかったわけです.
変わって出てきたのが鶴と亀.「鶴は千年,亀は万年」と言いますが,干支が何であろうと年賀状の図案として通用する「千人力,万人力」の動物でもあります(笑).
さて,その鶴と亀をどのように表現するか? まず思い浮かべたのが「鶴亀(つるかめ)」という謡曲の存在でした.昨年の「春の夜の夢:薩摩琵琶と朗読の夕べ」のチラシで,文学作品からテクストを引用して,それをデザインの素材にした経験から出た発想です.
「鶴亀」の物語は,月宮殿で年始の行事に臨む中国の皇帝(唐の玄宗とされる)が,恒例である鶴と亀による皇帝の長寿を祝う舞を見て,喜びのあまり自らも舞った後,長生殿に帰っていく,というもの.至ってシンプルながら,新年と長寿の祝意に満ちた,おめでたい謡です.
手もとの謡本『観世流謡曲百番集』(能楽書林,1951)を典拠に,鶴と亀による中ノ舞から終わりまで,少々長いのですが,一部を省略しつつ引用しました.なお,年賀状では漢字に正字体を用い,仮名遣いは歴史的仮名遣いのままとすることで,古語の格調を出すとともに,一方で詞章も味わってもらおうと考え,すべての漢字にルビを振りました.
千代のためしの数々に
何を引かまし小松の
緑の亀も舞ひ遊べば
丹頂の鶴も一千年の
齢を君に授け奉り
庭上に参向申しければ
君も御感の余りにや
舞楽を奏して舞ひ給ふ
宮殿の白衣の袂の
いろ妙なる花の袖
秋は時雨の紅葉の葉袖
冬は冴えゆくの袂を
翻す衣も薄紫の
雲の上人の舞楽の声々に
霓裳羽衣の曲をなせば
山河草木国土豊に
千代万代と舞ひ給へば
官人駕輿丁御輿を早め
君の齢も長生殿に
還御なるこそめでたけれ
(つづく)