豆腐連歌
最近刊行された松岡心平編『ZEAMI:中世の芸術と文化』第3号(森話社,2005)に,詩人の高橋睦郎さんが茂山千五郎家のために書き下ろした新作狂言「豆腐連歌(とうふれんが)」の詞章が掲載されています.
近年とみに知られるようになりましたが,茂山千五郎家には「お豆腐主義」「お豆腐狂言」と呼ばれる“家訓”があります.これは,狂言は能舞台でのみ演じるものとされた時代に,会合の余興にも出向いて狂言を演じた二世茂山千作(1864-1950.四世千作,二世千之丞さんの祖父)が示した,
〔お豆腐〕それ自体高価でも上等でもないが、味つけによって高級な味にもなれば、庶民の味にもなる。お豆腐のようにどんな所でも喜んでいただける狂言を演じればよい。
(茂山千五郎家のweb)
という考え方に由来するそうです.目指すは万人に愛される狂言,といったところでしょうか.
あとがきによると,もともと高橋さんに対する茂山千之丞さんからの依頼は,「お豆腐狂言」をテーマにした狂言小謡(「豆腐連歌」に併載)を書いて欲しい,というものだったそうです.ところが高橋さんの脳裏には,木綿豆腐と絹豆腐が言い争う姿が思い浮かび(笑),ついに新作狂言も併せて誕生となったとのこと.
人間も動物も植物も出ず,登場するのは食品だけ.互いを邪道の豆腐と批判し合う木綿豆腐と絹豆腐が,問答の末に和解し,その印として連歌を詠み始める……というのが「豆腐連歌」のあらすじですが,最後の最後にアッと驚く結末が待っています.こんな終わり方する狂言,私は見聞きしたことがありません.是非とも掲載誌で確認しましょう.
森話社 (2005/10)