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2008年2月 3日

見々久神楽の「節分詣り」

見々久(みみく)の長者「今日は節分さんだけん,杵築(きづき)の大社さんへ節分詣りをさんといけん……なんだいかんだい面倒くさいかもしぇんが,支度してごせぇや.

(今日は節分だから,出雲大社へ節分のお詣りをしなければいけない……なんだかんだと面倒くさいかも知れないが,支度をしておくれ)

島根県立古代出雲歴史博物館のサイトにある「動画の泉」で公開されている,「見々久神楽」(出雲市見々久町)の映像から,「節分詣り」という狂言風の演目の冒頭です.

見々久の長者に呼び出されたサンペイという名の従者が「はてさてお呼びでございますやら.いかなる御用にて御座候」と畏まった言葉で用件を訊ねると,長者は「ずーずー弁でいいけん」と,以下出雲弁でのやりとり.出雲大社へ節分のお詣りに行くから供をせよと言いつけて,主従そろって出かけています.大社に到着して,「鬼は外,福は内」と豆をまく長者.サンペイも長者にならって豆をまきますが,言葉を取り違えて「鬼は内,福は外」と言ってしまったもんですから,さあ大変.

能楽の狂言の影響が随所に見てとれる,「出雲弁狂言」と呼んでよさそうな演目です.

出雲地方で勢力を誇った神社のひとつである佐太(さだ)神社(松江市鹿島町)に伝わる「佐陀神能」という神楽が,能楽の様式を採り入れて現在の姿を整えたとされ,出雲地方の各地に佐陀神能の流れを汲むと思われる神楽が伝わっています.この見々久神楽の映像でも,今日の能楽で「翁(おきな)」と呼ばれる,千歳(せんざい),翁,三番叟(さんばそう)による神聖な舞の様子が紹介されていますが,「節分詣り」のような狂言風の演目があるのもまた,能楽の影響によるものかも知れません.

ちなみに,節分に出雲大社へ参詣に行くという筋立ての演目は,能楽の狂言にもあります.「福の神」では,節分と称して出雲大社に年籠もりに行った参詣人一行が,豆をまきつつ祈りを捧げているところに福の神が出現します.あるいはその名もズバリ「節分」という演目では,夫が出雲大社への年籠もりに出かけた留守番の妻の前に,鬼が現れて言い寄ってきます.これらと比較して見々久神楽の「節分詣り」を見るのも面白いかも知れませんが,出雲の住人として何より興味深いことは,節分に出雲大社で豆をまいている点ですね.今の出雲大社で,そんなことやってましたっけ?

2種類ある動画のうち,短編と公開編それぞれにこの演目が収録されていますが,公開編では16分02秒ごろから「節分詣り」が始まります.おうちでの豆まきのあとのお楽しみにどーぞ.

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