「絵図の世界:出雲国・隠岐国・桑原文庫の絵図」に行く[1]
(展示会の紹介と感想を,あるメイリング・リストに投稿しました.文面の一部を改変して下記に掲載します)
会期が残り少なくなってしまいましたが,先日「光の道」上映会の前に,島根大学附属図書館の所蔵資料による「絵図の世界」展(タヌキにゅーす)を見てきましたから御紹介します.
絵図というのは,平たく言えば古地図のことです.作成年代や用途によって,作図の表現や記載される情報はさまざま.また,出展資料の多くは松江はじめ出雲国内を扱ったものですから,当地の地形や街並み,人々の暮らしの変遷を知るという意味でも,見どころはたくさんあるのではないでしょうか.昨年春,県立博物館,県立図書館,松江郷土館で開催された「絵図でたどる島根の歴史」展の展示品も多数含まれています.
私が普段お世話になっている方のうちに,松江に在住/お勤めの方が多いですが,そうしたみなさんに鑑賞のポイントをおすすめをするならば,やはり城下町松江の絵図かと思います.城下町全体を取り上げた「松江城下町絵図」は,堀尾氏が治めていた17世紀前半のものと,松平氏が治めていた19世紀前半のものの2点.いずれも武家や寺社の名称が1軒1軒書き込まれ.さながらゼンリンの地図のようです.中でも堀尾期の絵図に関しては,原図では毛筆で記入された文字情報を活字に起こしたトレイスの図面もあわせて展示されていますから,「昔の人が書いた字なんて読めないよ~」という方には鑑賞の助けとなるでしょう.
そのほか,「松江雑賀町絵図」(1824年以前),「松江末次本町絵図」(元禄年間[1688-1704]に作成された絵図を1856年に書き写したもの)といった町ごとの絵図,松江大橋以東の水路や開発された新田を描いた「川下辺絵図」(1786?)も展示されています.
今日県庁所在地となっている江戸時代の城下町の中には,災害や空襲,再開発などを期に大幅な都市改造の手が加えられた都市も少なくないのですが,その点松江は江戸時代以来の道路や水路が比較的多く残っています.しかし一方で武士の時代が終わった明治期以降,土地の用途は大幅に変わりましたし,拡幅された道路,埋め立てにより失われた水路,用いられなくなった通りの名前もあります.現在の松江と変わらない点,変わった点,それぞれに多くの発見ができることと思います.
ところで,大学図書館主催の展示会だけに,精細画像化した絵図を活用したデジタル・コンテンツという気合いの入った成果物もいくつか公開されています.パネル・タッチ式の大型ディスプレイに絵図を映し,画面を手で触れることで見たい絵図の選択から細部の拡大までできる,といったものなどです.
今年の春のお披露目以来,松江市内のあちこちに出没している「松江歴史マップ(マルチメディアテーブル)」も,ヴァージョン・アップして登場.堀尾期,松平期,明治期,現代の4枚を同時に見ることができたり,松平期の絵図から「白潟天神町絵図」(1841)にジャンプして,その細部をトレイスと対照させながら見ることができるのは,新しいコンテンツではなかったかと思います(「白潟天神町絵図」は,家ごとに所有者や借家人,間口に奥行,さらには土蔵やかまどの所在まで記された,大変詳細なものです).
展示会場の様子(島根大学附属図書館).