小泉八雲熊本旧居で市民講座を聴く
政権交代の影響があったわけじゃありませんが(いやあのね)、中断していた熊本ばなしを進めます。
熊本駅に降り立って真っ先に向かった先は、小泉八雲熊本旧居でした。
中心市街地の大通りに通じる路地に面した公園の一郭にたたずむこの旧居は、八雲が熊本時代の最初の1年を送った家です。1960(昭和35)年、鶴屋の増築により解体の危機にあったのを、小泉八雲熊本旧居保存会による保存運動が実を結び、翌年現在地に移築されたそうです。そうした経緯もあり、今日も小泉八雲熊本旧居保存会が、熊本市から委託を受けて旧居の運営管理に当たっているとのこと。ちなみに松江に現存する旧居は、八雲が暮らした当時の所有者の子孫の手で代々維持されています。
熊本旧居は、松江の旧居と同じく、もと中級武士の屋敷で、式台のある来客用の玄関を構えています。私たちも今日は客人としてここで靴を脱ぎ、座敷へ上がりました。
到着して間もなく、邸内では熊本アイルランド協会主催の市民講座が始まりました。テーマは、八雲の父方のルーツで、少年時代を過ごしたアイルランドの教育史でした。8畳の奥座敷と6畳の次の間、そして縁側を埋め尽くす聴講者と関係者は、あわせておよそ30名。冷房はもちろんなく、戸を開け放った縁側と玄関の開口から出入りする風で暑さをしのぎます。
そういえば、松江の旧居がこのように催しの会場になるという話は、あまり聞いたことがありません。毎年秋の八雲忌俳句会でしばしば使われるのが、数少ない例外でしょうか。あとで熊本旧居の館長さんからうかがったところでは、この旧居は久しく地域の集会所としての役割を果たしてきたとのこと。保存の経緯とあわせて考えると、地域住民の共有財産として活用される旧居の姿は、想像に難くありません。市民講座の会場になるのも、ごく自然なことに思われます。
熊本アイルランド協会の今年度の市民講座は、年5回のうち3回が熊本旧居で開かれるそうですし、さらに熊本八雲会が主催する月例の読書会もあるといいます。八雲が暮らした家で、八雲にゆかりのある話を聴く、その機会が毎月巡ってくる。何とも贅沢な話ではありませんか。松江では得難い経験でした。
熊本旧居には翌日再び訪問して、催しのない普段の邸内の様子に接しました。その話はまた後日。
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