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2006年1月 6日

狂言を楽しむ:茂山一門の世界[3]2006年鳥取公演「釣狐」

(このエントリーは,2006年1月に開催される「狂言を楽しむ:茂山一門の世界」鳥取・米子公演を紹介するシリーズの1本です)

釣狐(つりぎつね)

鳥取公演
2006年1月19日(木)
鳥取県民文化会館梨花ホール

伯蔵主(はくぞうす),実は狐
茂山千五郎
猟師
茂山七五三……ほか

猟師の「狐釣り」に遭って多くの仲間を失った老狐.猟師の伯父の伯蔵主に化け,猟師に意見して狐釣りの罠を捨てさせます.しかしその帰り,打ち捨てられた罠に残っていた餌の誘惑に,伯蔵主の扮装を解いて身軽になってから食べようと言いつつ,その場を去りました.さきほどの伯蔵主の正体が狐であったと気づいた猟師は,潜んで罠を見張ります.やがて,狐が戻ってきました…….

このようにあらすじを書いてみますと,おもしろおかしい狐の失敗譚のような民話的世界を想像することもできますし,むしろその方が“笑いの藝能”らしく思われます.ところが実際の舞台にただようのは,仲間を奪われた狐の悲壮感と,罠と知りながら餌に手を出さずにはいられない心の葛藤.笑いの要素はほとんどないと言ってよいでしょう.なぜ「釣狐」がこのように重く演じられるのようになったのか,興味あるところです.

“猿に始まり狐に終わる”“狂言師の卒業論文”などという言葉があるように,「釣狐」の狐の役を演じることで初めて,狂言師は一人前として認められます.狐の着ぐるみに身を包み,狐らしく見せるために無理な姿勢もとりつつ,50分近い舞台を勤めるわけですから,演じるには相当の体力と技術を要することでしょう.

狐の役は通常,1人の役者が一生のうちに何十回,何百回も演じることはないと聞いたことがあります.野村万作さんが60歳代前半までに20回以上演じたのは異例の部類に入るのではないかと思いますが,今回狐を演じる茂山千五郎さんが,昨年から還暦記念として各地の狂言会で繰り返し舞台にかけているのも,珍しいことではないでしょうか.

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