2006年1月29日

游明朝体

みなさまごきげんよう.思いがけないことに今月2回目の『たぬき家小春の懸賞生活』の時間がやって参りました.

今回御紹介いたします商品は,Mac OS X搭載フォント「ヒラギノシリーズ」の開発でその筋ではつとに知られております字游工房が手がけました,日本語OpenTypeフォント「游明朝体 Std L」でございます.

この商品につきましては,グラフィック・デザイナーの石川陽春さんよりお話をうかがっておりますから,お聞き下さいませ.

石川陽春……游明朝体の第1弾として発表された「游明朝体 R」は,「藤沢周平の小説が組めるような明朝体」というコンセプトで開発されたというだけあって,日本語の文章をじっくり落ちついて読むのに適した書体だという印象を持っていました.「游明朝体 Std L」は,「游明朝体 R」のウェイト(文字の線の太さ)を一段階細くしたものです.

「游明朝体 Std L」の組み見本(縦組)

さっそく縦組のベタ送り(文字間隔を均等に文字を送ること)という,日本語では最も一般的な方法で文字を組んでみましたが,字間がゆったりとれてていいですね.モニターに表示させた時には,さすがに「L」クラスの明朝体では,本文を読ませるのに少し細いかも……という気がしていましたけど,プリンターで出力してみますと,問題はありませんでした.これで文庫本を読んでみたくなりました.

「游明朝体 Std L」の組み見本(横組)

今度は,恥ずかしながら私の修士論文の註から欧文の混じった箇所を,文字幅に応じて文字間隔を詰めたプロポーショナル詰めで横組にしてみました.

これまで私は,日本語の文章の中に出てくる半角英数字に,日本語フォントに含まれる半角英数字を使ったことがほとんどありません.漢字や仮名と比べるとどうしても見劣りがしてしまって,欧文フォントを組み合わせるのが常なんです.

その点「游明朝体 Std L」の半角英数字は,切り捨てずに使えそうですね.オールド・ローマン系書体の格調を保ちながら,とりわけ小文字やアラビア数字の幅がやや狭く,漢字の幅を約半分くらいに調整してあります.漢字や仮名に対して決して強い主張を出しているわけではないけれども,品質面ではひけをとっていないと思います.日欧のフォントの混植は,出自の異なるもの同士のぶつかり合いという気配がどこかしら漂い,それが魅力でもあるんですが,「游明朝体 Std L」の漢字/仮名と半角英数字で組んだものには,調和の美を感じます.

石川陽春さんのお話でした.石川さんが「游明朝体 Std L」でどんな作品をお作りになるか,ほどほどに見守って参りたく存じます.

それではみなさま,またお目にかかる日まで,ごきげんよう.

游明朝体 Std L
游明朝体 Std L
posted with amazlet on 06.01.29
字游工房 (2005/07/20)

2006年1月15日

『20世紀デザインヒストリー』

『20世紀デザインヒストリー』の画像

みなさま,謹んで新年のおよろこびを申し上げます.『たぬき家小春の懸賞生活』本年第1回目として御紹介いたします品はこちらの1冊.渡辺千春+サラ・ディズリー『20世紀デザインヒストリー』(プチグラパブリッシング,2005)でございます.

本書はその名の通り,20世紀のデザインの歴史を著したもので,日本語と英語の2言語で併記されております.20世紀を10年で区切った各章に,その年代を代表するプロダクトや現象について,カラー図版を添えて解説してあります.どの項目も1頁もしくは1/2頁をあててありますから,テンポよく読み進めることができるようになっております.

全体といたしましては,日本発のデザインに関する項目が占める割合が多いように見受けられます.柳宗理やウォークマンから,戦時中の国民服,電気釜,カップヌードル,ファミリーコンピュータといった「エ? これもデザイン史で取り上げるの??」と思わせるものまで,多岐にわたって取り上げられております.身近にありふれたモノでも,デザインの視点から見ることによりまして,普段とは違ったモノが目の前に浮かんでくるかも知れませんね.

デザイン史の本だけに,巻末には「グラフィック」「プロダクト」「ファッションと素材」「建築」「社会現象」の5項目を並列させた,35頁にわたるデザイン史年表つき.

20世紀のモダン・デザインを代表する書体と申してよろしいでしょう―Helveticaで欧文書体を統一するとともに,明快なグリッド・システムでレイアウトされたブック・デザインも見逃せません.

『たぬき家小春の懸賞生活』,今回はこのへんで失礼いたします.みなさま,ごきげんよう.

20世紀デザインヒストリー
渡部 千春 サラ ティズリー Sarah Teasley
プチグラパブリッシング (2005/09)

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2005年11月18日

『SOVIET STYLE』

『SOVIET STYLE』の写真

みなさま,御機嫌いかがお過ごしですか? 『たぬき家小春の懸賞生活』の時間がやって参りました.

先日,さるメイル・マガジンの読者プレゼントに応募いたしましたところ,一昨日当選者の発表がございまして,そして早くも本日,我がタヌキ小屋に郵送されて参りました.

その迅速さに驚き入りつつ,本日御紹介いたします商品は,1917年の革命をはさむ時期のロシアで巻き起こった藝術運動「ロシア構成主義」のデザイン・パターンを収めた本とCD-ROMのセット『SOVIET STYLE』(BNN,2005)でございます…….

……あー,ワレながら気持ち悪いノダ(笑).そろそろ石ちゃん語に戻すノダ.

1910年代ってのは,イタリア未来派,デ・ステイル(オランダ),バウハウス(ドイツ)といった構成主義に立った藝術運動がヨーロッパのあちこちで起きたノダ.それも,絵画,建築,彫刻,デザイン……といった,いろ~んな分野にまたがった形で.点,線,面,多角形や円といった幾何学的なかたちが,どのよーに構成されてモノをかたちづくってるのか,それをあぶり出したノダ.今につながるモダン・デザインの源流ナノダ.

中でもロシア構成主義ってのは,ソヴィエト連邦という社会主義国家の建設運動に結びついて,労働者とか,重工業を中心とする産業,軍事といったモノが,作品の主なテーマになってるノダ.

『SOVIET STYLE』にゃ,ロシア構成主義を再現した100点のパターン見本とそのJPEGファイルが収録されてて,デザイン素材として使うことができるノダ.半分くらいは,上に挙げたよーな,いかにもCCCPって感じのパターン.ねじや歯車,工場やの建物,蒸気機関車に軍用飛行機や軍艦,鎌とハンマー持った労働者……今となっちゃ,ナンデまたそんなモノばかりが大量にデザイン化されてったんじゃろ?? って気にもなるワケだけど,そーいったフシギさを味わうのも『SOVIET STYLE』の読み方なんだろニャ.

SOVIET STYLE
SOVIET STYLE
posted with amazlet on 05.11.18
Tomi Oladipo William Orr Sweeney
ビー・エヌ・エヌ新社 (2005/09/28)