制作実績

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「松江・能を知る集い」は,能の笛方(ふえかた)・槻宅聡さん(島根県安来市出身.東京在住)らによる能の講座とワークショップで,2004年1月に初めて開催されました.能・狂言が大好きな私にとっては,念願の能・狂言関係のお仕事です.
 
松江は,謡(うたい)や仕舞(しまい)の素人会が林立するわりには,能・狂言の公演が少ないため,能・狂言が広く親しまれているとは言い難い土地です.プロの能楽師が多く在住し,定期的な能・狂言の会も盛んな東京や京阪地方などに比べると,公演を伴わない能・狂言関係の催しに人の関心を集めるのは,決して容易ではないでしょう.古典藝能,伝統藝能と呼ばれる能・狂言には,しばしば「高尚で難しそう」といった類の先入観がつきまといますが,能・狂言の実際に触れる機会が少ない分,そのような先入観が増幅されてしまうのではないか,との懸念を抱かずにはいられません.それゆえ,「能・狂言の本当の魅力をより多くの人と分かち合う機会を,小さいながらも作っていけないだろうか」と常々思っていたのですが,そこへ今回のお話がやって来ました.
 
能・狂言を見に行きますと,素人のお弟子さんと思われる,謡本(うたいぼん)を持参する人を少なからず見かけます.観客の年齢層が高いことも一目してわかります.素人弟子ではない1977年生まれの私に言わせれば,こうした御年輩やお弟子さんたちばかりに能・狂言を楽しませておくのは,何とももったいない(笑).そこで,世に広まっている能に対する先入観を軽やかに乗り越え,若い世代の人たちや,能・狂言に対して高い関心を払っていない人たちにも手にとってもらえるような作品にしようと考えました.具体的に実践したのは次の2点です.
 
・石原まゆみさんのイラストレイションの採用
・従来の能・狂言関係の広告とは一線を劃したタイポグラフィ(特に書体の選択)
 
石原まゆみさんの作品はおしゃれでかわいらしく,時にはとぼけた味も出してきます.従来の能・狂言関係の広告では,まずお目にかかれそうにない作風です.そうした目新しさだけではなく,何より石原さんは,参加者がワイワイガヤガヤと楽しげに集う姿を,大変ほほえましい筆致で描き出すことができるという点が,今回共同作業をお願いするに当たっての決め手となりました.
 
使用書体は,『知られざる出雲そば』の路線を深めて,ウェイトの軽い現代的な表情の明朝体とゴシック体に絞り込みました.「日本の伝統ナンタラ」を感じさせる時に多用される楷書体や行書体といった毛筆系は避け,同時にポップな書体にも奔らない.簡素で清新な演劇世界を,過去の遺物ではなく現代に生きるものとして表現することを試みました.
 
私の能・狂言に対する考え方を整理するのに,大変よいきっかけとなった仕事です.
 
おことわり
この文章は2004年に執筆したものです.2007年のチラシでは,イラストレイションを小西優子さんにお願いしました.

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